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 近くの駐車スペースに車を停めて倉庫を通ると、細く小柄で白髪の目立つ老人が帽子を軽く上げて二人に挨拶をした。
 凌雅が手を振り、想が頭を下げる。

「新堂勝次郎さん。この敷地の持ち主で管理人。以前は青樹組立花全の元で庭師をしていたって聞いてるけど、社長と同じ姓だし気になるんだよね」

 凌雅の話を聞きながら、想は頷いた。
 肉親でもおかしくない。丁度祖父と言っても違わない年齢に見える。彼は既にこちらに興味は無い様子で倉庫の中のプロペラ機を磨いている。
 凌雅と想は二人で小型の飛行機やプロペラ機を眺めながら時折、勝次郎の豆知識を聞いた。勝次郎は冗談などはなく、ただただ説明書の様に解説をした。
 想は興味津々で聞いていたが、凌雅は聞き流すように携帯電話を操作したり、仕事の電話に出たりしていた。

「おや、そろそろ来るかな。遠くで聞こえるな」

 勝次郎がボディを磨きながら呟き、想は倉庫から出た。空にはなにも見えなかったが、一分も経たないうちに小型の自家用ジェットが到着し、新堂と白城会の部下が降りた。

「あ、負けました」

 新堂の後にいた部下が一万円札を新堂に差し出す。それを受け取り、新堂は口端を上げた。
 想が凌雅と共に迎えにくるか賭けていた。新堂は想の姿を見て黒い感情を隠すように口元を隠す。
 自分無しでは居られないようにしたいと思う欲が強まる。想には自立し、対等で、日の当たる場所で真っ当に生きてほしいという思いが消えそうになる。
 お互いがどんどん離れられなくなっていることをどちらも感じていた。

『おかえりなさい』
「ただいま。家で待っていればよかっただろ」
「はじめまして。キミが社長をメロメロにしてる子かぁ……社長に会いたかったんだろ、な!」

 新堂の部下がニヤニヤしなが、挨拶と共に想をからかう。
 想は否定できない言葉に少し赤くなり、苦笑いしてごまかした。
 遅れてやってきた凌雅が少し離れた場所で頭を下げる。

「お疲れ様です!仕事溜まってますよ!」
「まさか。凌雅君に任せたから大丈夫だろう」
「……え……」
「俺はベッドでゆっくり寝たいからさっさと送って」

 笑顔で言う新堂に、凌雅はハラハラしながら車に向かった。仕事はこなしたが、新堂並みにやれるはずはない。果たして評価はどうか、凌雅は自分の仕事内容を思い返して『大丈夫』と言い聞かせた。









「仕事はどうだ」

 『順調』とサインを作ると、新堂は頷いてスーツをリビングのハンガーへ掛けた。明日クリーニングに出すのだろう。あのまますぐに帰宅し、珍しく小さな欠伸さえした新堂に想は驚いた。本当に眠いに違いない。
 ニューヨークまでだいたい十時間強。機内でも仕事をしていたのか?と聞きたくなった。

「若林のとこはどうだった?」
『にく』
「野菜食えよ」

 想の回答に笑って、新堂は想のジャケットもハンガーへ掛けた。
 その様子を見つめながら想は山ほどの感情を持て余していた。寂しいなんて子供みたいだし、異性の心配なんて女々しい、新堂の仕事の話は聞くに聞けない。
 想は堅く唇を結んで新堂の背中に身体を寄せた。

『くるしい』

 何も考えないでいられたらいいのに、と目を閉じる。振り返った新堂に抱き寄せられた想は背中に腕を回した。
 シャツから香るのは香水のような強い香りではない。宿泊先のホテルの物だろうか。
 想は考えるのを止めたい一心で新堂の唇を塞いだ。少し背の高い新堂へ身体を預けるようにする。支える腕に力を感じた想は唇を離して見つめた。
 遠慮も照れも無い想の視線に新堂は少し違和感を感じて、伺うように出来る限り優しく見つめ返す。 
 想はゆっくりと目を閉じて身体を預けたまま新堂の下腹部へ手を押し付けた。衣服越しに擦るように力を込める。次第に硬さを増す存在を手のひらに感じて、自然に想の身体も熱くなり小さく甘い溜め息を零した。
 新堂の首筋を甘噛みして舐める。耳も、顎も。壁際に立ったまま想の愛撫を受けていた新堂の手が想の頬を撫でた。

「ベッドに行くか」

 想は首を横振り、屈んで新堂のベルトに指を掛け、手早く外す。その場に膝を着き、ズボンと下着を寛げ、緩く反応を示すペニスを口に含むと舌で刺激しながら唇で硬さを確認するようにはんだ。
 直ぐに硬くなり口に含むことが辛くなる。唾液と舌を絡めてゆっくりと唇で擦るように舐めしゃぶる。
 想は自身のベルトも緩め、適当に自分のペニスを扱き小量だが先走りを指に絡めた。そのままアナルに塗りつけ、中指の先を埋める。ピリッとした痛みに眉を寄せた。滑りが足りないが慣らしていけばどうにかなると、想は雑に指を押し込んだ。
 彼の全てを知る必要はない。此処が自分の居たい場所で、愛され、愛して、生きている。
 新堂には他にもそんな場所があったとしてもいい。仕事の都合もあるだろう。自分の手に収まるだけ、大切にすればいい。新堂の愛は本物だと実感しているから。
 想はそう考えながらペニスに舌を這わせ、アナルヘ薬指を足しながら、ただ新堂と繋がることだけを求めていた。









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