03
何も言わずにその人のあとについて歩いた。着いたのは駐輪場。並んでるんだかいないんだか分からない自転車たちの中から、目的の自転車を見つけて鍵を開けるその姿を黙って見ていた。
「よし。颯真、乗って」
乗って、と指し示されたのはサドル。その言い方だったら普通俺が荷台なんじゃねえの、と思いつつもハンドルを握った。手首が痛くて自転車に乗れないのかも。
「どこ行けばいいんですか」
言われるままに自転車に跨って校門に向けて走り出す。自転車に乗るのは久しぶりだ。
「ラーメン食いに行こうぜ。ちょっと行ったとこにあんの知ってるか? 奥田ラーメン。このチャリの持ち主の家なんだけど」
奥田……と言えば、マッチがいるチームの先輩だろう。あの人チャリ通なんだ。っつーか、あの人のチャリなんか俺が乗っていいのか? でもこの人が乗れって言ったからこうなったんだし。
「知らないんで道指示して下さい」
「じゃあとりあえず校門出て右」
指示される道順以外に特に会話はなく、校門を出て15分程でラーメン屋に着いた。
こんな時間に制服で、校外に出て昼食を食べるなんて、俺は考えもしなかったことで。補導されるんじゃないかと心配にもなったが、何も起こらなかった。
「こんちわっす」
「おー、また学校抜けて来たのか。あれ、今日は見ない子連れてんじゃねぇか。浩志は一緒じゃねぇのか?」
「ああ、こいつは後輩っす。浩志は今頃寝てんじゃねぇっすか? 朝からずっとねみーっつってました」
「まーたあいつ朝までゲームしてやがったな。まあ座れよ。いつものでいいか?」
「俺はいつもので。颯真は?」
「あ、じゃあ俺も、それで」
四人掛けのテーブルに座って向かい合うと、途端に気まずくなる。何話せばいいんだよこんな人と。目を合わせることも出来ずに俺は俯きっぱなしだ。
「颯真さー、俺にビビってんの?」
ビビらない訳がない。この人は自分が学内でどんな風に見られているのか自覚してないのか?
「お前全然喋んないね。俺といたら息詰まる?」
「……何、喋っていいか分かんないです。俺は喧嘩とか出来ないし、不良でも、ないし。共通の話題? みたいなのがないっつーか」
「ふーん? じゃあ何で颯真は吉原にいんの?」
「勉強できねぇから、です。中学の時、近くの学校は吉原しか受からないって言われて、それでも高校は卒業してくれって親に言われて仕方なく」
「それ相当だな。でもまあ、近くって言ったらうちか、全寮制の金持ち男子校か、私立のとんでもねぇ進学校か、普通の公立校しかねぇもんな」
だから大体は、公立校か市外の高校に行く。吉原しか受からないなんて言われる俺みたいな馬鹿は滅多にいない。
「そんな頭悪そうには見えねぇのに。馬鹿そうっつったらお前のクラスの倉田とかだろ」
「テストとか、真面目に受ける奴いないからほんとのとこは分からないすけど、たぶん俺、下から数えた方が早いです。倉田はあれで、上位だと思います」
「まじかよ。お前それで情報科って大丈夫なのか?」
「そんな大したことやってないですよ」
名前書くだけで入学できる馬鹿校で、専門的なプログラミングとかするわけないし、真面目に授業を受ける奴もいない。
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