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「……高屋、先輩は……」

「もっと適当な呼び方しろよ、何だ先輩って。航平でいいよもう航平で」

「え、さすがにそれは……じゃあ、航平さんは何で吉原なんですか?」


 喧嘩が好きだからとか言われたらどうしよう。何て受け答えすれば正解なのか分からない。聞かなきゃよかった。


「近くに工業高校は吉原しかなかったから。遠くのもっと専門的なとこ受けてもよかったんだけど、どうせ専門学校とか行かなきゃなんねぇし。高校の間にバイトして金貯めといた方がいいって思ったんだよな。中学の頃は」


 意外とものすごいまともな答えが返ってきて驚いた。俺なんかとは比べものになんないくらいちゃんとした理由があって、吉原にいるんだ。


「今は吉原に入って後悔してるってことですか?」

「いや。後悔っつーほどじゃない。まあでも、吉原の空気感が俺はあんま好きじゃねぇからさ。付き合う奴らも選んでたつもりだったんだけど……結局は俺自身が一番あの雰囲気に溺れてったんだよな」

「航平さんは、学内での扱われ方が嫌なんですか?」

「嫌かって聞かれたら、別に嫌ではねぇんだ。なんつーんだろな……別に不良だった訳でもねぇんだけど、あの中にいると、暴力も当たり前って感じになってくるだろ? それでその内に、周りの奴から持ち上げられるようになって、知らない奴からも尊敬みたいな感じで持て囃されてさ。正直、悪い気分じゃないけど、嬉しいかって話になると、そうでもねぇんだよなー。だから、何となく、つるんだりとかすんのはやめた」


 本当に意外だ。学内で超別格扱いされて、トップに君臨してる人が、こんな風に考えていたなんて。お山の大将じゃないけど、調子に乗っちゃうもんなんじゃないのか? 航平さんがその気になれば、言うことを聞かない生徒なんて……ああ、少しはいるかもしれないけど……でも、大多数はヘコヘコ言いなりになるのに。
 謙虚とは違う。航平さんは、普通じゃないのに、普通の感覚をもってるんだ。吉原にはない普通の感覚。


「航平さん、て……怖い人じゃないんすね」

「何それ、俺のこと怖がってたんかよ。お前に何もしてねえのに」


 むしろ階段から落ちた俺を助けてくれて、自分が怪我までしたのに、俺を全く責めないような人。


「イメージで……喧嘩強いから、怖い人なんだと思ってました」

「そんなこと言ったら浩志も大概っすよね、親父さん」


 注文したラーメンを運んで来てくれた店主さん、つまりは航平さんと並んで別格扱いの奥田浩志さんの父親? がニカっと人好きのする笑顔でこう言った。


「浩志なんかお前、シャレとゲームと喧嘩にしか興味のねえただの阿呆だぜ」

「喧嘩好きなのは親父さんの影響でしょうが。元ヤンのくせに」

「俺は浩志と違って健全なヤンキーだったっつってんだろ。あいつみてえにヤクザもんとつるんだことはねえし、女遊びもしっかりしてた」

「え、ヤクザ……?」

「颯真のクラスにいたマッチとか浩志のいるチームにさ、野田組の孫がいんだよ。そのことを言ってるだけで、別にやべーことに関わってるとかじゃねえから」

「お前も阿呆だな。その孫が次の組長だろうが。十分やべえんだよ」

「でも縁切れとは言わねえじゃねえすか」

「言ってんに決まってんだろ馬鹿野郎。あの阿呆が聞かねえだけだ」


 あんなこと言って、チームの奴らがラーメン食いに来たら歓迎してんだぜ。と航平さんが言った。


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