交換条件
「俺がここにおったんも仕事や。山田一郎っていうのも俺の名前やけど、ほんまは違う。俺がここで任されてたのは、くぅちゃんの監視や。すまんな。ずっと一緒におったんは、くぅちゃんの情報を得るためやってん」
何言ってんだっていう顔。そらそうなるわな。こんなこと言われてすんなり受け入れられる奴なんかおらんて。
「俺には自分の命より大事な奴が2人おる。俺の弟と鈴音や。その2人を守るために、どうしても逆らえへん人間がおった。そいつからくぅちゃんを見張るように言われてな。まぁくぅちゃんには俺の事情は関係ないねんけど……ほんまに悪いことしたと思てる。すまんかった」
「俺が警視総監の息子だからか?」
「そうや。警視総監になる前から、あいつにとっては邪魔な存在やった。真っ当な人間にとっては我が子っちゅうのは弱点や。それを活かさん手は無い。だから俺はいつもくぅちゃんのそばにおった」
「お前のこと、友達だと思ってたんだぜ?」
「……俺もそうや」
友達。冴島空牙は俺にとって間違いなく友達と呼べる存在やった。一緒におって楽しいと思える。話してて面白くて笑う。そういう普通にええ友達。
ただ、鈴音と譲二のためやったら、俺は誰を利用してでも2人を守る。それだけのこと。
「その、逆らえない奴っていうのはどうなったんだ?」
「死んだよ。ついこの間な。ようやく、俺らは自由になった。せやからこの学園も辞めて、山田一郎っちゅう名前も捨ててどっか行ってまおうと思ってたんやけどな……まだまだそばで守ったらな、心配でな」
「そうか……ま、そういうことなら交換条件で許してやるよ」
「交換条件? なんや?」
「お前の本当の名前を教えろよ」
そんなことで、十年も騙し続けたことが許せんのか。でもこの十年くぅちゃんのことを見続けて分かってることがある。くぅちゃんには裏が無い。こう言うなら、これが本心なんや。
「俺のほんまの名前は、柿崎翔太。他人に情報を売るのが俺の商売や。将来警察官になるくぅちゃんにとってはめっちゃ使える人間やで。今後も仲良くしたってや」
「柿崎って、お前……」
「内緒やで? それから情報屋らしく、ええこと教えたる。鈴音がこの学園におるんは、野田先輩のためにあの人が卒業するまでだけや。それに4月からは会長に頼まれて補佐になる。くぅちゃんもなりふり構わずぶつからんと、あの人らに負けてまうで?」
ニヤッと笑った顔はなかなか男前やった。まぁ、俺の方がかっこええけどな。
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