生きて戻ったからには
「なぁ、くぅちゃん。鈴音を狙っとるやつがどんだけおるか知っとるか?」
「……知りたくもねぇよ」
「まぁ聞けや。まず俺とお前やろ。それから野田先輩と会長、理事長の次男坊、風紀の黒崎先輩」
「は? どっから出たよ、黒崎先輩は」
「どっこでも人誑してきよんねん。あの無自覚ちゃんは」
昔っからや。まぁでも女にはモテん。あいつの隣に並ぼうと思える女はそうおらんわ。
「ほんでな。あいつの中ではダントツで野田先輩やと思うやろ。ちゃうねんで」
「野田先輩じゃねーなら誰だよ?」
「だーれも恋愛的な意味では好かれてない。全員オトモダチや」
性的な接触はあっても、ただの好奇心と慣れない快感への興味だけって感じやな。キスするの気持ちいいなーとかそういうノリ。野田先輩との過剰な接触もスキンシップでしかない。
あいつは恋愛感情ってものが理解できてない。誰かを独占したいとか、誰かの特別になりたいとかそういう気持ちが欠けとる。だって自分の中に特別な、自分にしか分からん唯一無二の大切な存在があった。自分の片割れが常に一緒におって、しかも一般的な十代の人間関係の形成を一切してないんやから、恋愛なんてものがどんなものかなんて分かるはずがない。
「つまり、これからってことや。恋人になるか友達のままか、これから決まるっちゅうことやな」
「……お前ってさ、やっぱ鈴音のこと前から知ってたんだな?」
「まぁな。ずっと黙っとって悪かった。生きてこの学園に戻って来たからには、くぅちゃんに色々言わなあかんと思とったんや」
「色々?」
「バレンタインの……俺と鈴音がおらんなってそれから戻ったあん時、くぅちゃん調べたんやろ? レオンのこと」
会長から聞いたしな。くぅちゃんは適任やし、そういう調べもん任すんは当然や。
「何でも屋レオンっていうのがいるってことだけ。それが誰でどんな風貌でなんてことは全く分からなかったけどな」
「当然や。あいつの顧客はあいつを隠したがるから情報も広まらへんねや。新規の客なんか滅多に増えへんしなぁ。顧客同士の紹介より、今回みたいに仕事中に出会った人間をあいつ自身が顧客にする方が多いわ」
「じゃあやっぱ鈴音は仕事でこの学園にいんのか」
「そうや。だから俺はあいつと初対面のふりをした。まぁ山田一郎として会うのは初めてやったからな。あながちおかしな態度でもなかった」
「……山田一郎として?」
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