スピンオフPink chanmery | ナノ


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「貴大、免許は?」
「持ってるよ。車と二輪。二輪は寮にある」
「寮に?」
「家出同然で出て来た時、乗ってきたから」
大地は目を丸くする。

「家出?」
「そ。高校卒業してから東京出てきた。家にいたくなかった。後先考えてないからさ、泊まるとこも宛てもないわけ。東京に知り合いいないし。どうしようかと思ったね。けどさ、今の時代っていいね、ネットカフェがあるからさ。金は高校の時バイトしまくったから、それなりに持ってたんだ」
「そうか……」
車は新宿から六本木に出た。

「六本木?」
「たまに飲みに行くバーがあるんだ。新宿では飲みにくくて。そこ、教えとく。俺の、高校の同級生がやってる店なんだ」
「へぇ……」
あそこ、と指を指した先に、「Ice Age」と書かれた壁。

「Ice Age?」
「うん。二階。行けるかな、貴大と」
「行けるよ。ここ来れば大地の高校時代の話、聞けるんだな」
「たいした話はないよ。ふつーの高校生だったし」
「そういうのが聞きたいんだよ」
店を通り過ぎて東京タワーへと出る。

「上ったことある?」
「あるよ。兄貴と」
貴大は車からタワーを見上げる。

「貴大、兄弟いたんだ」
「うん。大地は?」
「……弟がいるよ。貴大は二人兄弟?」
「あ、うん。割と仲良いかな。連絡取り合ってるし。年離れてるから仲良いのかも」
貴大が答える。

「俺と違って出来がいいから。大手の……家具とか雑貨とか扱う会社に勤めてんの。買い付けと出張兼ねてタイにいる」
「タイか」
「タイ、行ったことある?」
「海外はアメリカとヨーロッパの辺りしかないな……」
「いいなぁ。俺、飛行機にすら乗ったことないのに」
「じゃあ、機会があれば一緒に行こう。職業柄、短い旅行になるかもしれないけど」
「大地と行けたら日数なんて関係ないよ」
にこにこしながら答えれば、大地は言った。

「俺は行くなら、貴大とめいいっぱい海外旅行、満喫したいし、日数も欲しいよ?」
「大地」
名前の後にハートマークが付いた声にクスリと笑う。

「行こうね」
「うん、絶対」

けれど、この海外旅行は行かずに彼らの関係は終わりを告げるのだ。

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