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昼、起きればまだ大地は寝ていた。
疲れてるのに、ボーイズバーまで来て、閉店までいてくれた。
「……ありがと、大地」
そっと大地の髪を撫でる。
「……たかひろ?」
「起きた? おはよ」
「おはよ」
もそもそと起き上がる大地を見つめる。
「起きちゃうの?」
「起きないの?」
きょとんとした目で見つめられる。
「起きる」
うーん、と伸びをして起き上がる。
「お昼か。何食べる?」
「何があるの?」
「昨日、貴大のとこ行く前に買物したからね。さすがに無さ過ぎて困る。この前、ろくになかったでしょ? ごめん」
「あ、ううん」
「あっても普段、腐らせちゃうから置かないんだ」
そうだ、寝に帰るだけっぽいもんなと思う。
「でも、今日から置けるね」
「あ、うん」
恥ずかしそうに、大地はそっぽを向いた。
「とりあえず、貴大の荷物取りに行って、いろいろ揃えよ」
と、ちらりと貴大を見る。
「あ。合鍵」
棚の引き出しから鍵を出して貴大の掌に前渡された合鍵を落とされる。
「ありがと」
「なんだか、ドキドキワクワクする……」
「ははっ、俺もだよ」
大地に笑いかけると笑い返してきた。
「で、何食べる?」
「うーん、ご飯」
「ご飯とお味噌汁?」
「そう。あとねー、甘い卵焼き。なんか魚ある?」
「鮭なら」
「じゃ、鮭焼こう。ご飯炊いて、炊けるまでにシャワー浴びる。ど?」
「いいね。俺、炊飯器セットする。貴大、シャワー入っておいで」
「うん」
「あ、着替えどうしよう。俺の入るかな」
「またスーツ着るからいいよ。後で服とか取りに行かなきゃな」
「先に取りに行く?」
「後でいーよ」
ここには仕事で着ていたスーツしか着替えはない。
「お腹すいたし」
「そうだね」
大地も頷く。お腹すいていたのは同じらしい。
「大地は今、どこに住んでるの?」
「寮。蓮華の。あ、でも、一時、弾のとこにいる」
「弾? 東雲弾?」
そう、と頷こうとして大地の顔を見て止まる。
「なんで……、もう。わかった。貴大はうちに引き取る。オーナーにも連絡する」
貴大は大地が弾のせいで怪我をしたのを知っていることを知らなかった。
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