スピンオフPink chanmery | ナノ


▼ 6

けれども弾は口に出してからかう事はしなかった。

弾と一緒にいる内に、仕事が楽しくなってきた。そうすれば徐々に指名は増えてきた。



「弾、ホストに向いてるよな」
「はぁ!? 何、言ってんだ。おれが向いてたってしょうがないんだよ。ホストで身をたてる訳じゃない」
「そうだけど」
「ホストは嫌いだ。オーナーはそれ知ってておれをホストにする。嫌がらせだ」
「弾、前にもホストした事あるのか」
「不本意ながらな」
ホストに嫌そうな顔で弾は答えた。

「なんでホスト」
「いろいろあったんだよ、要オーナーとはな」
弾はそれ以上言わなかった。



次の日、大地は1人で店に来た。
客として。貴大を指名した。

「大地!」
大地の顔を見た時、大地の瞳が貴大に向けられる。

目が合って、そっと恥ずかしそうに伏せられる姿にキュンと来る。

「来てくれてありがと」
「……うん。……何頼めばいい?」
大地はシステムを知らないようだった。それはそうだろう。男がボーイズバーなどのホストクラブには来ない。

「好きなものを。オーナーからの伝言で本日神谷様の飲み物代お食事代は頂くなと言われてますから」
弾がスッとメニューを大地に見せた。そのメニューには値段が書かれていない。

「でも」
「オーナーのちょっとしたお心遣いです」

そんな話、オーナーからは聞いていなかった貴大は、だがそれを大地の前で弾に聞くことはしなかった。

「じゃあ……」
「ピンドン1本出ました」
弾が高々と声を上げる。

周りにいたホストは顔を上げて、ありがとうございますと声を上げる。

「ピンドンって……」
大地はピンドンが何か知っていた。

ピンドン――ドンペリニオン、ピンク。
シャンパンの中でも。

「こんな高いシャンパン……」
弾はフルートグラスに注ぐ。

「飛路さんにも少し頂いてもよろしいですか?」
「あ、はい」
スイッとグラスを置き、そのピンクの液体を注ぐ。

「ごゆっくりおくつろぎ下さい」
恭しく弾は頭を下げた。

大地と2人になる。

「大地、乾杯しよ」
「たかひ――。いや、飛路」
「何?」
「話、しよう」
グラスを取ることなく大地は言った。

「ここは店だよ。グラス持って」
大地は素直にグラスを持った。

「乾杯」
グラスを合わせて一口飲む。大地も飲んでくれた。

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