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「無理ではないけどな。おれがヤクザなの忘れんなよ」
「あ。近くまでで良い」
病院へ行く前に新宿署へと弾は運転してくれた。
「行ってこい」
新宿署の前に車を止め、弾は言った。
新宿署の受付で呼びだして貰う。
大地は署内にいた。
「大地」
「悪い。忙しくて」
貴大は鍵を返した。
「俺、このまま会えなくなるのはいやだ。鍵だってホントは返したくない」
「名取君」
「貴大って呼んでよ、大地。俺、迷惑?」
大地は首を振った。
「良かった。じゃあさ、友達から始めよう。それならいいでしょ?」
大地は良いとも悪いとも言わなかった。困った顔を向けていたが、ぼそっと携帯の番号を呟いた。
「覚えてたらかけて。忘れたらそれっきりだ」
「ええっ」
必死で大地が呟いた番号を思いだそうとする。
「じゃあね」
大地は戻っていく。
車に戻るまでぶつぶつ番号を呟いて頭に聞いた番号を忘れないように叩き込む。
弾が怪訝な顔で貴大を見てきたが無視した。
病院の受付でペンとメモ帳を借り紙に書いた。それを胸の内ポケットにしまった。
大地の携帯の番号をゲットした。多少舞い上がっていた。
「なぁ、お前、寮住まいだろ。腕治ったら、押しかければいいじゃん。神谷んとこ。意外といけるんじゃね? 会う時間なんかないじゃん。別に住むとこあるなら寮にいなくていいんだし」
「押しかけるかぁ。いいな、それ」
大地は困った顔しながらも、受け入れてくれそうだなんて考える。刑事のくせして押しに弱そうな大地。
刑事だと言われなきゃ、誰も大地を刑事だなんて思わないだろう。
だからって会社員にも見えない。
日付が変わろうとする時、ちょうどヘルプに付いていたホストの女性がそろそろ帰ると言いドアまで見送る。
手が空いたその時、大地に電話をかけた。
『もしもし』
「大地。俺」
『名取……、いや、貴大?』
「うん。仕事終わった?」
貴大と呼ばれた事に嬉しくなる。
『今、帰ってきた』
「おかえりー」
『……ただいま。番号覚えてたんだね』
「必死でリピート再生してた」
電話の向こうでクスッと大地が笑った気配がする。
『貴大、仕事中だろ。明日、店行けると思うから、話そうか』
「うん! 待ってる」
『おやすみ』
「おやすみ」
電話を切れば、ニヤニヤ笑う弾と目があった。
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