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組長がふっと笑った。
「飛路。お前、本名何て言う?」
「名取貴大、です」
「貴大。うちの組は、蓮華の従業員を守る為にいる。もっと早くうちの若頭を止めることはできたはずなんだ。お前もやりにくいだろうが、弾には責任を取らせる。俺にも責任がある。そこもきちんとするつもりだ」
貴大は黙って首を振った。
「売り言葉に買い言葉ってあるし、俺も乗った。俺だって悪い。気にしないで下さい」
敬語らしいものを貴大は初めて使ったかもしれなかった。
組長は小さく頷くと、立ち上がる。
「貴大。お前は度胸がある。弾と言い合うくらいだ。お前の成長見ててやるよ。なぁ、要」
「うん、そうだね」
くすりと要オーナーが小さく笑う。
「千里さん、今夜、お時間ありますか。飛路を指名してやって下さい」
「いいよ。また数時間後に来る。弾は置いていく。貴大、こき使え。弾、喧嘩は御法度だ」
組長はそこで立ち上がる。
「邪魔したな」
組長はそう言うとオーナールームを後にした。
「少し時間あげるから、打ち解ける為に少し話し合ってごらん」
要オーナーは組長を見送るために出て行った。
「あー……、悪かったな」
若頭が言いにくそうに貴大を見た。
「……俺も、悪いし」
「治るまで、いるから」
助かると言えば、確かに助かる。
他のホストには、頼みたくない。ライバルだから。変なフライドだが、いつ蹴落とされるかわからない世界だ。
「何て呼んだらいい」
「好きなように」
「じゃ、タカ。おれは弾でいい。店用はシノな」
店が開店するまで弾と話していた。話せば同じ年だとわかった。
意外と話も合う。すっかり打ち解け合っていた。昨日、腕をざっくりやられたのが嘘みたいに。
打ち解けた時、少しの間組長が貴大を指名して来てくれた。
店が開店する。
弾は、まるで貴大がナンバーを持つホストのヘルプにでも付いたかのようにサポートしてくれた。
貴大自身、ナンバー付きのヘルプだというのに。
そのおかげか、指名を2件、貰う事ができた。
「弾、元ホストとかじゃないだろうな」
弾のやることにそつがない。やって欲しい事を即座にやる。
ヘルプの鏡だ。
弾を真似すればヘルプは完璧だろう。
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