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「行こう。神谷」
篠山が立ち上がり、部屋を出る。
「送っていくよ、名取君」
大地は貴大の背を押した。貴大の背中が熱かった。スーツ越しでもわかる。
怪我して熱持ったのだと気付く。
どんな怪我したんだと気にはなったが、黙っていた。
「篠山さん、今日はこれまでにしましょう」
「ああ」
車の中の貴大は大人しかった。要オーナーはもしかしたら貴大に熱があるのに気付いて休みにしたんだと今更気付いた。
「名取、寮どこ」
篠山が聞くが返事がない。
後部座席で目を閉じていた。
「うちに連れて行きます。熱あるみたいなので」
大地はそう口にしていた。
大地の住むマンションまで、篠山は送ってくれた。
部屋に入ってとりあえず大地は寝室に貴大を連れて行った。
「着替えて。少し小さいかもしれないけど」
貴大は小さく頷く。
貴大は大地よりも身長が高い。
貴大が持ってきたスエット。貴大が着替えている間は寝室から出た。怪我したのは見られたくないだろう。
貴大のスーツをハンガーに掛けて寝室の電気を消した。
「大地……」
ベッドに潜り込んだ貴大が大地を呼び止める。
「どうした?」
「……」
「……おやすみ」
少しの間の後、おやすみと返ってきた。
シャワーを浴びてから貴大の様子を見る。
額に堅く絞った冷たいタオルを当てた。
「大地?」
「うん」
「……大地。俺と付き合って。好きだ」
「名取君?」
「貴大だって。……俺と付き合って」
大地は貴大をじっと見た。暗い部屋の中、貴大もこっちを見てるのがわかる。
「俺、男だけど」
「知ってる。男も女も関係ない。大地を好きになった」
「ありがとう。でも、付き合えない」
「……なんで?」
「……」
「……なんで?」
大地は口を開いた。
「俺、重いんだよ。好きになったら束縛してがんじがらめにしちゃって。それで、振られる。だから、もう恋愛はしたくない」
「普通だろ。それ。好きになったら自分のものにしたいってさ」
「鬱陶しいくらい重いんだ。ごめん、貴大」
「ずるいな、こんな時に名前呼び……。いいよ、俺、大地を落としてみせるから。大地、少しは俺に好意ある? でなきゃ、そんな事言わずに無理だって断るよね? 男同士だし」
「……無理」
「遅いよ、大地」
フッと貴大が笑った。
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