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貴大と目が合った、最初から、貴大はなぜか特別だった。
「駄目、だよ」
「大地。大好き」
「……」
貴大の言葉は嬉しかった。でもどこか引っかかっていた。
貴大の過去は女性ばかりだったから?
自分だってそうなのに。
貴大が男だから?
そこじゃない気がした。
「大地も一緒に寝ようぜ」
貴大は空いた場所を叩く。
大地は一人暮らしだが、ベッドはダブルだった。
「いや? 何にもしないから」
「わかった。いいよ」
貴大の横に寝ると貴大が抱き付いてくる。
貴大の身体が熱い。
貴大はそのまま眠ってしまった。
大地も目を瞑る。
翌朝、書き置きを残して家を出た。
出勤までいてくれていいと。
鍵は合い鍵だから次会った時に返してくれれば良い事。
お昼は適当に冷蔵庫にあるものやインスタントを食べてくれて良い事。
その日の昼過ぎ、マーメイドの店長を逮捕した。
殺人のほうで。
貴大の証言の元、店長を調べると、家から大量の里香とセリカの小物が出てきた。
里香は店長に迫られ、断ったところでナイフによって殺された。
昨日、セリカのモノを盗り、見つかりそうになった為に、逃げていく人影を見たと嘘を吐いていた。
貴大の証言のおかげだった。
里香とセリカは店長の好みのタイプだったが、里香がいない今、ターゲットはセリカだった。
蓮華に犯人逮捕の連絡を入れた。
店長の取り調べが始まる。
今日中に帰れるかなと思う。
多分、鍵を返してもらったら貴大とももう会わない。だから、断って良かったんだとまだ夜の帳が降りる前の青色の空を見てそう納得した。
貴大は嫌いじゃない。
ああ、そうかと気付いた。
貴大は弟と同じ目をして大地を見る。
大地の初恋は実の弟だ。誰にも言ったことはない。
親しみを込めて大地を見る瞳。弟と同じ親しみを向けてくる。
同じだからこそ躊躇する。それはほんとに恋なのか。
貴大、それは恋ではないんじゃないか。
「神谷、ここにいたのか」
休憩所のベンチにいた大地を篠山は見つけた。
「取り調べ、しますか」
「神谷」
「はい」
篠山を見上げる。
「神谷は元々所轄の人間じゃない。いつかコンビ解消もあるだろうけど、それまではオレの相棒でいてくれよ」
「勿論です」
その答えに笑みを零した篠山は、行くぞと身を翻した。
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