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蓮路は、美容師だ。
高校を卒業し、大学に行き、1年でやめ、美容師の専門学校へ行った。
「おはよーございます」
「あ、おはよう。蓮路」
店長の神楽が振り返る。
店が開店し、客が来店してくる。
今日の蓮路の最初の客は、拓海と同じ年くらい、大学生の女の子だった。
こちらへどうぞ、とシャンプー台へ促す。
蓮路の一日が始まった。
1時を過ぎてようやくお昼にありつけた。
携帯を見ると拓海からメールが来ていた。
『09:18 ムカつく。チビに引っ掻かれた!』
大方、拓海がチビにちょっかいをかけたのだろう、ばかと呟いて、2件目を開けた。
『11:03 いってきます。チビにご飯やったから。また夜にご飯やりに行きます。明日、また泊まりに来ます。よろしく(^-^)/』
了解、一言の返事を拓海に送った。
蓮路は、拓海に長いメールを送った事がない。
だいがい、短い今みたいな返事が主だ。
蓮路はメールより電話派だった。だから用があれば電話だった。
それは、恋人の拓海に対しても、親友の昴や新に対しても、それは変わらなかった。
仕事が終わり、マンションに帰る途中、コンビニで晩飯を買う。
帰って、飯を作る気力がなかった。
ミーティングが長引き、時刻は11時を回っている。
マンションのエントランスを横切り、エレベーターへ乗り込む。
5階の奥が蓮路の部屋だった。
蓮路の部屋の前に誰かが座っていた。
蓮路の足音にその人物が顔を上げた。
その人物は、蓮路と同じ顔をしていた。
もう、10年以上会っていない、双子の兄だった。
「大地?」
「うん」
とりあえず大地を部屋の中に入れた。
「大地、今何してるんだ?」
「刑事」
「……刑事? 警察の?」
「そう」
「へぇ、すげー。あっ大地、飯食った?」
「うん」
「俺まだなんだ。食っていい?」
「どうぞ」
大地にお茶を出して、とりあえず蓮路はコンビニ弁当を食べ始めた。
「有給休暇取った。で、急に蓮路どうしてるかなって、思って。……姉さんに連絡したら、ここ教えてくれた」
「そっか」
「休暇の間、いていい?」
聞かれて、いいよの一言が出てこなかった。
薄情な弟。
とっさに拓海の顔が浮かんだ。
拓海との関係は、昴と新しか知らない。
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