▼ 団欒2
「仁、行ってくる」
今日は月に一度の団欒日。
「あれ? スーツじゃないね」
長袖シャツにジーパンという出で立ちに仁は珍しそうに千里を見た。
「ああ。いつものスーツじゃ、目立つんでね。今日は」
「目立つ?」
「ああ。ライブハウスに行ってから千早の家に行くからな」
「ライブハウス? 何しに行くの?」
「朱里が歌ってんだ。だから今日は朱里も一緒だ」
東雲家3兄弟、千草、千里、千早が千早の家で月に1度顔を会わせていた。たまに朱里がこうして加わるが、腹違いの千明が来ることはない。
「そっか。先輩によろしく言ってよ」
「ああ」
千早は刑事だ。仁も今はヤクザに身を置くが刑事だった事もある。
その時、仁と組んだのが千早だ。
千早は実家はヤクザを生業としてきた。が、千早は家を飛び出し刑事になった。
「いってらっしゃい」
仁は千里と千草を見送った。
「おら、お前も呑め」
ライブが終わり、打ち上げもそこそこ千里に引っ張られ千早の家にやって来た朱里は千早に絡んでいた。
「何杯目だよ、もう無理。明日も仕事あるし」
「俺だってある」
千早のグラスに注がれる酒。
「勘弁して」
ごろりと千早は後ろにひっくり返った。
「だらしねー。見ろ、ちぐっちゃんを」
千草はやはり何杯目かの酒をちびちびなめていた。千草の顔は呑み始めるときと変わらない。隣に座る千里は更に日本酒に手を出すところだった。
「ザルと一緒にするな」
「ちっとは酒に強くなったかと思えば、弱くなってねぇ?」
「呑む暇ねーよ」
「情けねー。ちさっちゃん、付き合え」
今度は千里を巻き込んだ朱里は騒ぐだけ騒いで30分しない内に眠り始めた。
「起きてればうるさいだけだけれど、目を閉じてれば、千里そっくりで双子なのを思い出しますね」
くすりと千草が微笑む。
「だよな、朱里兄は黙ってスーツでも着て、髪を黒くすればちさっちゃんと間違うくらい格好いいのにな」
「そうだね」
「こいつはこのままでいい。仁が朱里に惚れかねない」
「大丈夫じゃね? それは。仁、千里兄の顔に惚れたわけじゃないだろ」
「それはそうだ。でも仁は俺達の見分けはつかないだろうな」
「わかんないぜ」
「……試してみるか」
今回の兄弟団欒は騒がしく、そして静かに幕を閉じた。
090301
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