▼ valentine kiss
バレンタインともなると、バレンタイン用品の売り場は男には近寄りがたいものがある。デパートのチョコレート売り場も同様だ。
多少男性が混じっているのが仁にとって幸いだった。
バレンタインなんて、チョコを貰うという事はあっても、あげるなんて、去年まで思ってもみなかった。
女性に囲まれた中、チョコレートを買うのは、男の仁にとって恥ずかしかった。それでも、千里にあげたいと思った。
仁が選んだチョコは、かの有名な、名のつくブランドチョコ。大人の雰囲気のある、それなりに値のはるものだ。
5つの小さなチョコレート。
普段、なかなか言わない、『愛してる』。それを言いたい。
「愛してる」
言うだけで恥ずかしい。仁は顔を真っ赤にして千里から顔を背ける。ふっと笑って千里は音をたてて仁の頬にキスをした。
「買った時の仁の顔を見てみたかったな」
「見なくていいよ……」
赤くなっている顔を隠そうとすると千里が阻止する。
「ありがとう」
「ん」
こくんと頷く。
「……俺も買った」
「え?」
ミニテーブルの上にあった小さな紙袋を手に取ると千里は仁に渡した。
仁とは違う、けれどやはり名のしれたブランドチョコ。
千里のくれたものは、とてもシンプルな生チョコレートだった。生チョコレートの入った箱はとても上品で、とても高いのが伺える。
「ありがと、千里。嬉しい」
「礼はキスがいい」
「いいよ」
千里の唇に重ねる。すぐ離して、でも味わうように再びキスした。
甘い、バレンタインキス。
「ん……」
甘えるような声。千里のキスはとろける。
「……あっ」
とろけかけた途端、千里がひいた。追いかけて捕まえる。それで火がついたのか千里は激しくなぶる。
「ふ、っあ……、まっ……て」
裾をたくし上げ手を差し入れてくる。冷えた千里の手にふるりと震えた。とたんに視界が反転し、倒されてベッドに縫いつけられる。
整った千里の顔を見つめる。
「まさか仁から貰えるなんて予想してなかった。俺も愛してるよ、仁」
Happy valentine!
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(10/22)