最強男 番外編 | ナノ


▼ 011

千鷹は信頼を置く新居の四代目・要と日立の四代目・時雨には決して嘘を言わない。

東雲の四代目・千鷹は信頼がなければ三家は成り立たなくなるからだ。

「千鷹、神流に嘘吐くの?」
「吐いてるな。あいつ、嘘を嘘とも思ってないんじゃね?」
「……なんていうか、哀れ」
「いいんじゃね? 俺はあいつが思う程あいつを思ってるわけじゃないし、どうでもいいしな。お前の方が大事だぜ?」
「うん……。千鷹はもし、千鷹の“日立”が神流だったら、それでも、そう言ってくれた?」
「言うな。時雨と神流は違う人間だ。あいつが俺の“日立”なってたとしても、お前のほうを信頼したろうな。もともと時雨と要の3人でいたからな。神流はたまに扱いづらいしな」
扱いづらい、千鷹がそう言うとは思ってなかった。

「時雨は神流、苦手だろ」
「……まぁ、うん」
「あいつは、でも、上に来ると駄目だ。あいつは分家で良かったと思うぜ。我が強すぎる」
「ああ……。そうだね」
「もう少し丸くならないか、あいつは。ま、これでとりあえず神流の話は終わりにしようぜ。せっかく2人っきりなんだ」
「うん」
「どうせならここで食うか。藤堂に言ってくる」
「ううん。食べに行く。千鷹は……あ、たべたんだったね」
「つき合ってやるよ。軽くなら食えるし」
ベッドから起き上がる千鷹に続いて起き上がる。

「ああそうだ。これだけ。恭の事なんだけど、今日、正式に幹部を降りた。幹部をやめて一組員でいたいんだと」
「そうか。ちらりと千森が言ってたよ」
「横浜を任す」
雨宮恭一は、幹部の中でも千鷹に気に入られた存在だった。

「横浜の山手の屋敷にも近いしな。たまに様子見に行くつもりだ」
「うん」


キッチンには藤堂がいた。東雲本宅の料理人だ。

「なんか食いもんある? 時雨、食ってない」
「ありますよ。シチューです。組長も食べますか」
「シチューなら食う」
「温めます。少しお待ち下さい」

藤堂は東雲総一がレストランでスカウトした料理人だ。千鷹より5つ程年上だった。物腰はいい。が、強面でガタイは武道派のそれだ。組員であり、料理人なのだ。

「藤堂さん。フォカッチャある?」
「ありますよ。時雨さんが好きなのは知ってますしね。組長はフランスパンでいいですか?」
「おー」
フランスパンもフォカッチャも、もちろん藤堂の手作りだ。藤堂は手作りにこだわる。

「そういえば、別宅で千里に会ったよ。元気そうだった」
「ふぅん」
興味なさそうに千鷹は頷いただけだった。

けれど千鷹は一番、千里をみていた。
東雲の5代目は千里だと言い、千里には厳しく当たる。

親の心子知らず、とはこの事だ。千里は厳しくする千鷹を嫌う。

いつかわかるさ、と疲れた顔をして笑う顔をした千鷹が忘れられないと時雨は思う。

「あ、おかえり」
リビングに甲斐が顔を出した。

「藤堂、なんか飲み物ない?」
キッチンを覗き、藤堂に聞いている。千早と同じ年で、本宅に住む。千早とは腹違いの兄弟だ。

「千早は?」
「部屋にいるよ」

千早と甲斐。
本妻の子と妾の子。

甲斐は唯一、妾の子でありながら東雲姓を名乗る子だった。

他の妾の子や愛人の子は東雲姓ではない。

千鷹にはそんな子達が何人かいる。時雨も全員把握してるわけではない。

千早と同じ年で妾の子がもう1人いる。名前を千明という。

千明には一度だけ時雨は会ったことがある。

千鷹の用事で千明の家に千鷹と行った時だ。

この時、千明も家にいたし千明の友達もいた。それが仁と厚也とも知らず。

過去、会っていたことも気付かず、時雨は仁と横浜の別宅、千里の代では本宅の屋敷で再会するのだ。

藤堂にジュースを貰い2階に上がって行った。

数年後、千明は東雲姓になる。この時、時雨はそんなこと思っても見なかった。千鷹が甲斐以外の子を認知すると言うことを。

甲斐の場合、やむを得ず東雲になった。母親が出産後亡くなったのだ。だから千鷹は甲斐を認知した。妻の春灯も甲斐を可愛がった。

いつか甲斐に本当の事を話す日がくる。甲斐は春灯を母親だと思っている。

千早と甲斐は誕生日は1日違い。だから甲斐は疑いを持たない。“双子”が日をまたいで生まれることもある。

幸い、千早と甲斐は仲がいい。

藤堂にごちそうさまを言い、千鷹と部屋に戻る。

「時雨」
「ん?」
ベッドに横になり時雨を見てくる。

「日立のじ様、どうだったんだ」
「元気だったよ。僕が来ないから仮病使ったみたい」
「ああ、通りで。おかしいと思ったんだよな」
「おかしいって?」
「2日前、ちょっと総本家に行った時、元気だったからさ。まぁ、年だから倒れてもおかしくはないけどな。日立のじ様に限って倒れるとかないだろ」

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