最強男 番外編 | ナノ


▼ 012

2日前、今日のように別行動だった。その時は、千鷹は用もその後ないからと総本家に行き、時雨は事務所にいたのだ。

時雨が帰る頃、総本家にいた日立の者に送られて千鷹は本宅に帰って来た。

「元気ならいい。ほんとに倒れたら、こんなのんびりしてられないからな」
本当に倒れていたら、千森も時雨を誘わないだろうし、今頃総本家に日立一族は勢揃いだろう。

「今日は疲れた。一緒に寝ようぜ。ウサギちゃん」
「うん」
時雨に割り当てられた部屋が本宅にはあるがめったに使われない。たいてい、時雨は千鷹の所で寝起きしていた。

「ウサギちゃん、おやすみ」
千鷹は時雨を抱き込むとスッと眠りに引き込まれていった。

千鷹は神流と東雲組の事務所と新宿や銀座を往復したはずだ。

「おやすみ、千鷹」
ちゅ、と小さく唇にキスをして時雨はベッドが抜け出す。

千森の“日立”の事を忘れてはならないからだ。

千鷹の言葉に従い、千森に連絡し、神流が詩の妊娠を知るまで黙っていることで千森と合意する。

神流に“日立”宣言をさせるのだ。




話し声で目が覚めた。

ぼんやり目を開ければドアを開け千鷹が誰かと話していた。気配を感じたのか千鷹がこっちを向く。

「……行け」
小さな声がドアの向こうの人物に千鷹は命令を下す。

「誰?」
「んー? 誰だっけな」
ベッドに乗り上げ、時雨の頬にキスして言った。

「時雨、くいだおれようぜ」
「……は、え?」
「くいだおれの街、大阪行くぞ。目的はそっちじゃないけどな」
「何、しに」
「相模組に挨拶しに」
さらっと千鷹が言う。

相模組と言えば大阪、いや、関西では有名なヤクザだ。

関西では1・2を争う大きな組だ。東雲組は関東で久遠寺組と1・2を争う大きな組だろう。

「相模に千草と同じ位の年の女の子がいるんだってさ」
「……まさか、千草に? 早いだろ!」
「誰も千草にとは言ってないだろ。千草か、千里か、千早か……、それは会わせてからだな。まずは顔見なきゃ始まらない。年から言えば千草だろうが、千里と結婚となれば願ってもないけどな。……忘れたわけじゃないだろ、俺と春灯の出会いもこんなだった」
「そうだけど」

「何もすぐ決めろってわけじゃないし、奴らには何も言わない。結婚は愛し合ってするもんだと思ってる。出会いを提供するだけだ。大人の思惑なんて上手くいくはずないだろ。上手くいきゃ、万々歳。部屋戻って用意して来い」
「……わかった。……千鷹は春灯さんと恋愛結婚だと思ってる? 政略結婚?」
「組の為なら政略結婚だろ。けど、俺は春灯を愛してる。恋愛結婚したと思ってる」
千鷹の口から愛してるという言葉を初めて聞いた。時雨は自分が傷ついたのに気が付いた。

「じゃあ、」
なんで浮気するの。

その言葉を時雨は飲み込んだ。

千鷹がじゃあやめると言ってしまえば、千鷹と時雨の関係は終わってしまう。

「時雨、用意して来い」
「はい……」
部屋を出た時、誰かにくすりと笑われた気がして振り帰る。


「……?」
その忍び笑いの主と時雨は近くにはいるが決して出会う事はない。

時雨そっくりの情報屋の壱という、つい最近千鷹の仲間になった人物のものだった。

日立の事を暴くため千鷹は壱を仲間にした。
日立一族は東雲に隠し事をしている。千鷹の勘がそういっていた。一族、いや歴代の当主と現在の日立の当主が黙る秘密。

千鷹の影の情報屋はそれを見つけるのが千鷹に与えられた仕事だ。三家で、東雲組で壱を知るのは千鷹と千咲のみだ。


「……気のせいか」
時雨は部屋に戻る。着替えをしてリビングにいるだろう千鷹の元へ戻ると千鷹はスーツを着ていた。

時雨もスーツだ。

「他は誰が行く?」
「俺とお前。春灯と楓」
「春灯さんも。意外と少人数だね」
楓は春灯の“日立”だ。

「千森と詩」
「詩、行けるの?」
「行かざる得ないだろ。神流に同行を頼んでる。もう来るだろ。神流は全体の安全確保を主にみる。昨日、頼んでて正解だったな。昨日、神流に頼んだときは詩の事は知らなかったからな」

そこで神流がこっちに来るのに気が付いた。

「おはようございます」
神流は千鷹に挨拶する。それから時雨にも挨拶して来た。

「春灯と千森と詩待ちだ」
千鷹の言葉に頷くと神流はソファーに座った。

「神流、明日からでいい。屋敷全体の警備体制を見直そう」
「なぜ?」
神流の顔はこのままでいいだろうとありありとわかる顔をしている。

「千鷹の部屋の前で人の気配を感じた。千鷹の部屋周辺だけでもいい」
時雨がそう言うと神流は厳しい顔をした。

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