最強男 番外編 | ナノ


▼ 003

綺麗になったところで椅子に座らされる。

シャワーノズルをつけると頭の上から雨のように降ってきた。

シャンプーで頭を洗われる。人に洗われるのは気持ちがいい。


「さっきの、やっぱり甲斐だった?」
「ああ。ダイニングで朝飯食ってた」

甲斐は、千鷹の子だ。
千鷹と妾の子。

千鷹には浮気相手がいる。愛人であったり妾であったり。彼女らの子供はみんな千鷹の子供だ。

甲斐の母親は甲斐が生まれてすぐ亡くなった。甲斐は赤ん坊の時に千鷹に引き取られ、千鷹の妻、春灯に唯一可愛がられている妾の子だ。

千早と同じ年の小学1年生だ。
甲斐のような妾の子が何人いるのか時雨は知らない。知りたくもなかった。が、時雨が知るのは甲斐ともう1人、千明という少年だけだ。


「神流に学校まで送れとか言ってたな」
「寮に入ってる子と遊ぶのかな」
今日は日曜日だ。

「さぁ?」
千鷹は結構放任主義だ。だが、きちんと見ているところは見ている事を時雨は知っている。

頭の泡を流されて、今度は身体を洗ってくれる。

「……、神流が来てる?」
「ああ。服取りに行ったときにちらっとな。何しに来たんだ、あいつ」
「千鷹に用じゃないの?」
「いや? 俺の顔見て頭下げただけだったなー。ウサギちゃんに用かもな」
白い泡が全身に広がり、湯に流される。

「まさか」
ここ数年、神流と話した記憶はない。

「けど、他に誰がいるよ。湯に浸かれ」
千早か甲斐か、けれど可能性は低い。


湯に浸かるとすぐ千鷹が追いかけてきた。時雨を背中から抱く。

「ウサギちゃんは項、綺麗だよな」
唇を寄せられ、ちゅっと吸われる。そこに小さく薔薇の花が咲いた。そこに顎を乗せられる。


「なぁ、時雨」
「なに?」
「千里の事だけどな」
「千里?」
振り返れば千鷹の真剣な瞳とぶつかった。

「千里、俺に似てる?」
「え? どうして?」
「その答えはウサギちゃん自身がもう持っているよな? 時雨が千里を見る目、愛おしそうに見てる。俺を見る目と一緒」
千里は千鷹に似ていた。確かに千鷹の妻春灯の面影もあるが、時雨が千里に目を向けるほど顔も性格も良く似ていた。

「たまに、小さかったあの頃に戻ってしまったのかと錯覚するときがあるよ」
「時雨。あいつは千里で、小さかった時の俺じゃねぇし、俺も小さい千里じゃねぇ。重ねてみるな。千里は俺に似てる。俺が気づいたように、千里もその内気付くぞ」
「うん、ごめん」
しゅんとうなだれる時雨に千鷹が耳朶を甘噛みしてくる。

「イタッ」
甘噛みから本当に噛みつかれる。

「似てるからって千里に恋するなよ。犯罪だ」
犯罪紛いな事をしているヤクザの組長には言われたくない台詞だ。千鷹を睨む。

「児童ポルノには手ぇださねぇよ。趣味じゃねぇし。時雨がやれって言うなら考えなくもないな」
「やめてくれ」
「あれ、ウサギちゃんは興味あんじゃねーの?」
「あるわけないだろ!」
千里の事を揶揄する千鷹の顔は楽しそうだ。

「怒るなよ、怒った顔もそそるけどな」
「スケベ」
「男は大抵スケベでエッチだ」
「……」
もう言葉も出ない。

「1度千鷹の頭の中、見てみたい」
「見ないほうがいい。ウサギちゃんにどんな事してやろうか日々考えてるからな。目眩(メクルメ)く妄想の世界にようこそだぜ」
「……変態」
ぼそりと呟くと、ほめ言葉だなと千鷹が言った。

始末におえない、と時雨は横目で千鷹を見た。



千鷹をほって風呂から上がり、髪をタオルで水気を取りながら廊下を歩いていれば神流が壁にもたれて時雨を見ていた。

「4代目」
そう声がかかる。

日立時雨。
時雨は日立家本家の4代目、長男だった。

「2代目が倒れられました」
「爺様が?」
「3代目がお呼びです。出来れば今日中に総本家に顔を出して下さい」
「わかった」
頭を下げその場を離れようとした神流の足が止まる。


「時雨」
「なに?」
神流の口調が変わる。

神流は日立として4代目と話す時敬語になるが普段はため口だった。

「千鷹と風呂?」
「……」
「別に構わない。でも、オレの気持ちもわかってるよな、時雨」
時雨と同じように神流も千鷹を想っていた。気付いたのはいつだっただろう。

「……わかってる」
「そうか」
なら、いい。そう言って去って行く。

時雨も神流も一方通行の恋だ。


「何だ、神流の奴もう帰ったのか」
「あ、うん」
すぐそこに千鷹が立っていた。

「千鷹、今日は?」
「事務所に行く」
「帰りは手の空いた日立に送らせる。総本家に行きたいんだ」
「何かあったのか?」
「爺様が倒れた。父さんに呼び出されたんだ」
「わかった」



千鷹を東雲の事務所へ送り、少し自分の仕事を片付けてから時雨は総本家へ向かった。

今日も1日雨だろうと雨粒がフロントガラスに伝わるのを見た。

prev / next
bookmark
(3/16)

[ back to top ]


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -