最強男 | ナノ


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「千里は仁に優しいかい?」
「はい」
頷けば時雨は空を見上げた。

「僕もそう思うよ。千里はね、千鷹と同じ。優しい人だけど、非道にもなれる。いらないと思えば切り捨てる。いつか仁もわかる時がくる。その時、仁は千里の手を握ったままでいられるか、だな。……僕は千鷹の手を離さなかった。だから千鷹は自分1人に秘めたものを僕に話してくれた」
時雨は仁の瞳を覗くと言った。

「きっと千里にもあるよ、1人で秘めているもの。千里は日立の者を一切自分に近付けなかった。唯一近付けたのがくふりだ。千里の中でこいつは自分の“日立”にならないとわかっていたのかもしれない」
仁以外はいらないと言った千里の顔を思い出す。

「千里は、俺がいつか千里の傍に来ると思っていた?」
「そこまではわからないな。けれど千里の片想いは誰もが知っていたし、千里が仁を想う気持ちは痛いくらいわかったからね。その気持ちが、仁との出逢いに繋がったのかもしれない」
時雨は言う。

「強くなりなさい、仁。どんな千里でもついていけると言えるくらい、心も強くなりなさい」
「強く……」
「稽古はね、何も身体を鍛えるだけじゃないんだよ。心も鍛えるんだよ」
「心……」
「僕もね、心を鍛え直さなきゃいけない。一緒に鍛えていこうか、仁」
「はい」
真摯に頷けば時雨は微笑んだ。

「仁は僕よりずっといい“日立”になるかもしれない。仁は素直だ。僕にもその素直さがあれば千鷹との関係も違ってたのかもしれない」
さびしそうな時雨の顔。

「どんな関係なんですか? 時雨さんと千鷹さんって」
時雨は前に話した時、過去形にはしなかった。だから仁も過去形にはせずに聞いた。
時雨はただ悲しそうに目を伏せた。
そうして黙ったまま時間が過ぎる。


「……千鷹に逢いたい」
「時雨さん」
「こんな事、仁に言ってもしょうがないね」
顔を曇らせたまま、笑う。

「千鷹さんはどうして亡くなったんですか?」
「……千里に聞くといい。僕からは言いたくない。千鷹の事は千里に聞いてくれ。ほんと言うとまだ千鷹の話をするにはつらいんだ。千鷹の軽い話なら大丈夫なんだけどね」
仁には無理して時雨が笑っているように見えた。

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