最強男 | ナノ


▼ 9

「なんだ、稽古しないのか」
様子を見に来たのか、千里が仁の隣に座る。

「千里。仁に千鷹の事、話さないのか」
時雨が問う。

「親父の事は、正直話したくない。でもそうだな、話すべきなのかもな」
眉間に皺を寄せ千里は言った。

「今日の稽古は千里の、千鷹の話だ」
そう言って時雨は部屋へと消える。

「千里、千鷹さんはなぜ亡くなったの? 千鷹さんって時雨さんとそう年は変わらないんでしょ?」
「親父のほうが1つ下だ」
「そうなんだ」
「親父はちょうどこの部屋で死んだ。刺されてな」
後ろの部屋を差す。千里に仁は恐る恐る振り返る。なんの変哲もない見慣れた部屋だ。

「……誰に?」
「千明の母親だ」
「え……」
仁の記憶にある千明の母親はやさしい人でいつもにこにこ微笑んでいた、そんな印象が残っている。

「親父を刺して自殺した」
「まさか、ありえない。おばさんが?」
「事実だ。親父が死んで時雨さんが死のうとした。前に言ったかもしれないが日立は主人の秘密をも主人と共有する。他に漏らさない為に自ら死を選ぶ。時雨さんもそうだった。時雨さんは俺が助けた」
「前に言ってた。でも万が一、主人の秘密を人に漏らす事もあるかもだろ」
「ない」
千里ははっきりきっぱり否定した。

「どうして?」
「それじゃあ、主人を持つ資格がない事になる。けれど、主人が死ねば、関係なくなる。でも別に、日立は主人が死んだからといって死ななきゃいけないかと言えばノーだ。死ぬ必要はないんだ」
「じゃあ、どうして時雨さんは死のうとしたんだ?」
「主人に対する忠誠心の為だな。どれだけ主人に尽くしたのか問われるようなそんな感じだ。死ななきゃお前は“日立”として主人に気持ちを入れて尽くしていなかったんだろうと見られる」
「おかしいよ、それ」
「それは俺も思う。だから時雨さんを助けたんだ。それに時雨さんは日立にはいてもらわないと。それに時雨さんをなくしたくない」
時雨は千里達にとって父親だった。子供に目もくれない父よりも時雨は子供だった千里達や棗にとっては父親だった。

「それに、彩子さんが1人になる」
1度だけ見た時雨の奥さんを思い出す。彩子の笑顔が曇るのは仁も嫌だと感じた。

「でも、死のうとしたって事は、彩子さんがさんより千鷹さんが勝(マサ)ったって事だよね……」
伺い見るように仁は目を上げた。

「“日立”は主人につくと他のものが見えなくなる傾向がある。時雨さんもその1人だ。仁はそうなるな」
「うん」
誓いのように頷いた。

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