最強男 | ナノ


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「梓君って、俺より年下だよね?」
「もうすぐ19だ」
千里が答える。

「千里の“日立”に、なった?」
再び千里はソファーに座り肘掛けに座る仁を見上げる。

「正式じゃない。“日立”はいらないと宣言していたから、日立一族から俺の“日立”になりたいって言う奴はいなかった」
「うん」
「日立は18歳になれば誰かの“日立”になれる。東雲側に拒否権はない」
「え、ないの?」
驚いた顔を向ける。

「ああ。だから、日立一族側から俺の“日立”になりたいと言われないよう予防線として、いらないと言っていたんだ。元々それ程日立に対して興味なかったしな」
「ふうん。それで?」
千里の顔を覗き込む。

「梓は、華奢だろ。なのに実力で言えば初瀬の次に腕がいい。まだ、18歳にならない、誰かの“日立”になりたいと宣言していなかった梓は、珠希を守るのにちょうど良かった」
「珠希さん?」
肘掛けから腰を浮かすとぐいっとひっぱられ、勢い良すぎて千里の足の間に落ちる。

「痛い」
床に尻餅ついた形だ。
顎を上げ千里を睨むように見上げれば、可笑しそうに仁を見下ろしていた。
怒る気が失せてしまう。

「去年、珠希が――」
言いかけた口が言葉を止める。

「いいにくかったら、いいよ?」
「いや……、珠希が妊娠してな」
「妊娠……」
「表向き俺についてる形で、珠希の護衛を頼んだ」
「そっか。……えと、聞いていい? 珠希さん、その……」
聞きにくそうに仁が口を開く。

「その時うちの組は下っぱがヤバい事に足突っ込んでいてな。珠希は妊娠初期で不安定だったのもあって護衛をつけていたんだが、珠希にもうっかり飛び火して、子供は流れた」
「そ……。……珠希さん、辛かっただろうね」
「俺は珠希が死ななくて良かったと思ってる。珠希が無事なら、子供を抱かせてやれると思った」
「……うん。……え?」
まさか、と瞳を合わせる。

「珠希と俺の子だ。お前を拾った日が出産予定日だった。あの日仁を拾ったのは運命だと思った」
「千里……」
「梓は、それで背中にはケロイド状の火傷の跡がある。梓がいなけりゃ珠希も死んでた。……もし」
言いかけた語尾が消える。

「え?」
「生まれたら……、もし男の子なら、仁と名前を付けよう」
珠希とそう言ってたんだ、と千里は言った。

だから、余計に仁に会えた時、嬉しかったんだと。

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