最強男 | ナノ


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「最近、棗さん来ないけどなんで? 背中の龍、中途半端でさ」
「ああ、お前が“日立”になる迄は墨は入れに来ない。早く昇り龍を完成させたきゃ、早く“日立”になれ」
仁の唇に乗った煙草に火がともる。その煙草をそっと千里は奪い返した。

「稽古しながら墨入れちゃ駄目なわけ?」
「綺麗に入れたきゃやめとけ」
「わかった」
美味しそうに煙草を吹かす千里を見ながら笑った。

「どうした、仁」
「んー。俺さ、刑事でいるときより生活が充実してるなーって思って」
「そうか? ま、その内そうも言ってられなくなる」
「……何かあった?」
「いや、まだ何も。けどな、ヤクザの生活が平和なわけないだろ」
「それは……、そうだね」



暫くして遼が顔を出した。横には仁の知らない顔がある。

「千里ちゃん。正式に遼さんの“日立”になったよ」
にこりと千里に笑いかける少年。

「はっきり言っていらねぇけどな」
「まだ言う!?」
「せいぜい役にたて」
「あったりまえ! ってなわけで、遼さんが大阪に帰る時、一緒に大阪行くから千里ちゃんに挨拶しとこうと思って」
少年は姿勢を正した。

「日立梓、大阪に行きます。今までお世話になりました」
頭を下げる梓に千里は立ち上がって梓の前に立つ。

「俺のほうが世話になった。ありがとう」
頭を下げたまま梓は頭を振る。

「千里ちゃん、大好きでした」
何か吹っ切れた顔をして梓は顔を上げた。

「見てて。遼さんに好きだって言わせてみせるから」
えへって笑い舌を出す梓に千里は笑った。

「行こっか。遼さん」
「ああ」
行きかけて梓は立ち止まる。振り返って戻って来ると仁に顔を向けた。

「これ……」
差し出されたのはストラップだった。

「正式じゃないけど、千里ちゃんの“日立”をしてたトキがあるんだ。その時、千里ちゃんに貰った。僕にはもう必要ないから。あげる。千里ちゃんの“日立”になるんだろ。ええと……仁さんだっけ?」
「ありがとう。仁でいいよ」
幼さの残る笑顔で笑って、仁、と名を呼ぶ。
ストラップを仁の手に落とすと遼と部屋を出て行った。

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