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千早が千里と似た瞳を向けてくる。
「仁、サト兄をよろしくな。でも、オレを1人にするな? かまえ。さびしいから」
仁はくすりと笑って、頷いた。
千里はまだ部屋に帰って来ていなかった。
窓辺に座って煙草を取り出す。けれど煙草に火はつけなかった。
東雲組に来て、煙草をやめようかと思ったのは千歳がいたから。
けれど、千里は煙草を吸うし、料理人である渚だって吸う。
やめるにやめれない。
厚也の言った通りだ。吸う人が側にいれば煙草はやめられない。
火のついていない煙草をくわえて窓の外を見れば、灯りの中に浮かぶ日本庭園。
窓を開ければクーラーなんていらない。
「千里さん何してんだろ」
呟いて煙草をもて遊びながら唇に乗せる。
千早の部屋にはまだ電気がついていた。
「なんだ、いたのか」
千里が部屋に帰ってきた。
「千里さんどこいたの?」
「日立の部屋」
「ふうん。日立さんの部屋ってあるんだ」
「あるさ。仁も部屋欲しけりゃやるよ」
「……いらない」
ぷいっと仁は横を向いた。
「仁は、この部屋でいいのか」
千里は笑いながらベッドに座った。
「千里さんのこの部屋、好きなんだ」
「ふうん?」
唇に乗せていた煙草を抜き取られ、千里はその煙草を自分の唇に乗せると火をつけた。
「千里さん、いくつのときから煙草吸ってるの?」
「高校の時からだな、仁は?」
「俺も。高校の時っていろんな事に興味持ったから」
「セックス?」
「……千里さん」
「高校生位の年齢の男ってそれしかないだろ」
「否定はしないけど……」
仁は苦笑い。
「千里さん。煙草、返して」
「ん」
煙草を唇に返してくれる。千里の指が唇をかすめていった。
「千里さん、やらしい」
「そうか?」
にやっと笑う千里に近づいて頬に手を添えた。
「千里」
千里が仁を見た。
「そう、呼んでいい?」
「好きに呼べ」
仁が笑顔になる。
「聞いていい? 俺が初恋ってほんとに?」
「……」
顔を横に背け、千里は立ち上がって頭を掻いた。
ちらりと仁を見て諦めたように口を開いた。
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