最強男 | ナノ


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「千里、俺泊まるわ」
日立が千里に言った。

「好きにしろ、お前の家でもあるんだ」
「あー、まぁね」
「あ、じゃオレも泊まる」
にこっと千早が笑う。

「なんだ、珍しい」
千里が千早に目を向ける。

「サト兄、仁借りるよ」
来い来いと手招きされ、付いていけば、千早の部屋だった。

庭園にチィがいた。仁に気付くと寄ってくる。

「チィ」
よしよしと頭を撫でる。

「それ、千明の犬?」
「そう。千明が退院するまで預かってる」
「友達だって? 千明と」
「うん。先輩を初めて見た時、気を悪くしないで? 千明に似てるなって思った」
「片親は一緒だからな」
千早の硬い声が返ってくる。

「先輩は、千明が嫌い?」
「嫌いじゃない。好きでもないけどな。あいつのせいじゃないから、似てるのも、年が近いのも。……比べられるのも」
「うん」

でさ、と千早が続ける。

「なんで仁はここにいるんだ?」
「なんでだろ? 覚えてないんだ。別れた妻と喧嘩して、家飛び出して。これからどうなるんだろうって考えて。あてもなく歩いてた。……気付いたらここにいた。1ヶ月たってた」
「聞いていいか? どうなるんだろうって?」
仁は笑った。

「死ぬのかなって。借金苦で。ま、何がどうなって千里さんと会ったのかほんと覚えてないんだけど、千里さんがいてくれって言うし、俺もここにいたいからいる」
「借金のほうは?」
「千里さんがなんとかしてくれた」
「そうか」

「いなくなってごめんなさい」
「また会えたからいいよ。会いたかった」
「俺に?」
千早は頷く。

「心配したんだからな」
「ごめん、なさい」
「許す」
千早の笑顔にほっとする。


「仁はヤクザになるのか?」
「ヤクザになってもヤクザになるなって、千明が」
ヤクザに染まったかもしれない千明からの言葉。それは、その言葉は、出来なかった事を仁に託したのかもしれない。

「オレ、家族は好きなんだ。けどヤクザである東雲は昔から大嫌いだった。千草兄には悪いけど長男じゃなくて良かったって思った事が何度もある」
「先輩……」

「仁、後悔だけはするな。オレ、刑事になった事、後悔してない。しちゃいけないと思うしな。仁も、思うようにやれ。その代わり、後悔するな」
「……はい」

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