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厚也の腕の中でそのまま眠ってしまった仁を抱き上げる。
「いいわけ? このままだと仁は千里のモノだぜ?」
「仁は昔からおれのだ。誰の手の中にいようと」
愛しそうに仁の顔を見て、額にキスする。
「ま、どうでもいいけどな。寝る」
勝手に寝室へ向かう弾の後を追いかけ、ベッドに潜り込む弾の横に仁を寝かせた。
「起きたら仁連れて帰るわ」
「誘拐ごっこに付き合ってくれてサンキュー」
「いいさ」
夕方ひょっこり別宅に帰った。
「弾!」
「よう、千草」
「よう、じゃないですよ。誘拐されたのかと」
困惑気味に千草は答える。
「うん。されたよ? な、仁」
「え。あ、うん」
「なんで仁さんまで一緒なんですか。千里が仁さんまでいないって捜されてますよ」
「千里は?」
「リビングにいますよ」
リビングのソファーにもたれた千里がいた。
「千里」
弾が声をかける。
「どこにいた。なんで仁と一緒だ」
「あるマンションにいた。それがどこかは言えないけどな」
「言えない?」
千里はちらりと仁を見る。
「仁に聞いても答えない。千里、この件に関しては何もするな」
「犯人捜すなか?」
「そうだ」
さぐるように弾と仁に視線を投げた千里だったが、いいだろうと頷いた。
「帰るぞ、仁。千草、千歳呼んでこい」
ソファーから立ち上がって千里は仁の横をすり抜けた。千草が千里の言葉に屋敷のどこかにいる千歳を捜しに行った。
「千里さん!」
振り返って千里に声を上げる。千里が仁を見る。
「ごめんなさい」
「なんのごめんなさいだ」
「何も話せないのごめんなさいと、勝手に屋敷を出た事」
「屋敷を出る時、渚に声をかけたろ。でも帰るのが遅くなる場合は連絡しろ。心配する」
無言で頷いて仁は千里に抱きついた。千里も抱き返す。
弾は溜息ついて、やってろとリビングを出て行った。
「携帯いるな。お前のダメになったままだったな。仁」
「近いうちに買うよ」
ダメになった携帯のメモリーはもう復活しないだろう。だから新たに千里の携帯ナンバーから入れていけばいい、と思った。
「買ってやるよ」
「いいの?」
「この機に俺は機種変でもするか」
千里の携帯はカラーではあるがカメラも付いていない古い機種だった。
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