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「仁」
名を呼ばれて振り返る。
「好きだ」
「え……!?」
「返事は期待してない」
厚也が仁を見ている。
「じゃあ、気持ちは受け取っとく。返事はしないよ。ありがとう」
笑いあって仁は外へ出た。
厚也の家は青山にある高級マンションだった。
エントランスを通り、エレベーターで厚也の住む階で降りる。
ドアに鍵を差し込み開けた。
リビングに弾がいた。
「おー仁」
「……何やってるんですか」
「お前も飲む?」
バスローブに濡れた髪。
風呂にでも入ったのだろう。
優雅にソファーにくつろぎ、酒を呑んでいた。
「いい酒がゴロゴロあるぜ」
「帰らないんですか、みんな心配してると思いますよ」
「……バランタインだぜ?」
「頂きます」
ははっと弾が笑った。
グラスを持ってきて酒をつぐ。
「なぁ、仁」
「はい」
「タメ口でいいって言ったろ。……だいだいの事は厚也から聞いた。この件おれに任せないか。悪いようにはしない」
「それは厚が逮捕されないって事ですか? ……されないって事?」
タメ口に言い直した仁に弾は頷いた。
「千明も犯人知ってるのに言わない。それは捕まって欲しくないからじゃないのか?」
「だと思う」
「じゃ任せろ。千里には言うなよ。あいつには内緒だ」
いたずらっ子のような顔で弾はグラスを掲げ中身を飲み干した。
弾は決して悪いやつじゃない、なんとなくそう思った。
「俺、弾の事嫌いじゃない」
「それはどうも。おれも嫌いじゃねーよ? 好きでもないけどな」
「最後の一言がなければいいんだよ」
「ははっ、それがおれだから」
弾と酒を交わす。まさか弾とこんな風に夜を明かすなんて思っていなかった。
「まだいたのか」
朝方、厚也が帰ってくる。
夜通し呑んでいた2人は厚也を見て手招きした。
「何?」
厚也が近づいてくる。
「酒くせっ。うわ、オレの秘蔵の酒っ」
「あつー」
近づいて2人の前にしゃがむ厚也に仁は抱きついた。
「仁?」
「欲張りかな? ずっと好きでいて?」
「……ああ」
厚也の手が仁の髪の中に侵入する。
「お前が誰を好きでも、お前だけだ」
「うん」
そんな仁と厚也を恋のキューピッドよろしく弾は2人を眺めていた。
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