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「病院から出てこないからお抱え運転手が千明の病室まで見に行って、1時間も前に病室を出たと千明から聞いて探したらしいけど見つからず。で、千里さんの携帯に連絡があったんだ」
「弾がいなくなった?」
「うん。仁、千早にはまだ知らせるなよ」
「どうして」
「言って捜してくれるのか? 成人した奴を」
「……」
警察にいた仁はわかる。警察は事件性がなければ動かない。
「でも、先輩は身内でしょう?」
「あのな、弾は自分からいなくなった可能性もあるんだ。自分で動けるんだから」
「まだ何もわかってないの?」
渚が頷いた。
「渚、俺ちょっと出てくる」
ごちそうさま、と椅子を立つ。
「チィ」
千里の部屋を開けるとチィが顔を上げた。
「チィ、厚を覚えてるよな? どこにいる?」
チィは起き上がると付いて来いというように先導し始めた。
チィがどこに仁を誘導するのかわからず外に出ると仁は車に乗った。
チィも助手席に乗る。
チィは曲がる方向に吠えた。
車は北に行く。
神奈川から東京に入る。
たどり着いたのは歌舞伎町。
あるテナントビルでチィはドアを開けるよう催促した。
「待て、チィ。車、駐車させるから」
車を駐車させ、改めてビルの前に立つ。
チィが階段を駆け上がる。
それに仁も続く。
3階の店の前でチィは止まった。
「……ボーイズバー?」
連華。
「ほんとにここ?」
そうだよ、とでもいうようにチィが尻尾を振る。
仁は思い切ってドアを開けた。
いらっしゃいませ、と声がかかる。
近くにいた店員に厚也の事を聞いた。
「厚也、アツですか?」
ちょっと戸惑った顔で仁を見た。
「お待ち下さい。オーナーを呼んで来ます」
受付の横にある椅子に座って待つ。
「お待たせしました」
先程の店員がすぐ戻って来た。
後ろにはアイドル顔の男がいた。
「連華オーナー、若宮要です。厚也を訪ねて来たんですよね?」
「はい」
「今、彼は接客中で。手が空きしだい来ますので」
若宮が仁をオーナー室へ案内してくれた。
仁にコーヒーを、チィに水を出し、若宮が向かいのソファーに腰掛けた。
「日下仁様」
「どうして俺の名前……」
「たぶん近い内に厚也を訪ねて来ると。チィというシェパードと一緒に」
「……」
ドアがノックされる。
どうぞ、若宮が入室を許可した。
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