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「厚は、オレを恨んでる」
「恨む? なんで」
「……」
千明は黙って仁を見た。
「仁、厚に会え。千里兄の目をかい潜って会え。そしたら、わかるかもしれない」
「わかった、なんとかして会うよ」
「チィを使え」
こそりと呟くと、立てた枕に寄りかかる。
「仁」
「ん?」
「厚に会ったら言えよ? 背中に気を付けろってね」
「……千明」
仁は口を開きかけてやめた。
千明、お前はホントにヤクザになってしまったのか?
聞いた所で何になる?
自分だって今はヤクザの端くれだ。
「仁、ヤクザになってもヤクザにはなるな」
「意味わからない」
「身はヤクザになっても心までヤクザになるなって事だ」
「千明?」
千明は笑うと、
「仁の聞きたい答えとちょっと違うな」
そう言った。
「お見通しか」
「仁の考える事はだいたいな」
千里は1階の待合室にいた。
「千里さん」
千里が顔を上げる。
「日立さんは?」
「煙草吸いに行った」
千里の横に座ると仁は口を開いた。
「千明が東雲に来た時って……」
「ヤクザの家に入るっていう覚悟をしてたのか、か?」
「うん」
「してたな。だからって千明はヤクザにはならなかった」
「どう言うこと?」
「身はヤクザになっても心までヤクザになるな。あいつはそれを実践している奴だ。そして上手い事あの日立を手で転がしてる」
「日立さんはわかってて、千明に付いてるのか」
「千明のそういう所に日立は惚れてるからな」
「……。あ、そう」
「そういうところは千明もヤクザだ。そういう血筋を継いでるしな」
「……千里さんから見て千明ってヤクザ?」
「ヤクザだな」
「ふうん」
千里が立ち上がる。日立が外から戻って来るのが見えた。
横に弾がいた。
日立と弾がこちらに歩いてくる。
2人は恐ろしく目立っていた。
イケメンが2人。
ちらりと千里を見て3人だ、と仁は思った。
「今日は睨まないのか」
仁を見て弾がバカにしたように笑った。
そのバカにしたような顔にムッと来る。
「睨んで欲しいんですか?」
「いいや」
「じゃ、睨みたくないのでこっち見ないで下さい」
「面白いな、お前。仁、敬語はいらない。千明と同じ年だろ、タメだ」
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