最強男 | ナノ


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「千早、帰っていいか? 明日改めて仁と来る」
「うん、いいよ。仁、疲れてるみたいだしな」

「帰るぞ」
仁は目を開けて千里に頷くと立ち上がった。

「仁」
千早が仁を呼び止めた。
「あの時、何があったのか知らないけど、力になってやれなくてごめん」
「俺こそごめんなさい」
「千明の件が落ち着いたら、ゆっくり話そう」
こくりと頷いて仁は千里と部屋を出た。


「千里さん」
「ん?」
「どうして千明が?」
「さぁな。普段あそこは日立や他の奴らが数人いるんだ。千明が1人の時を狙ったとなると千明に恨みを持つ奴の犯行だろうな」
「千明に……。千明は人に恨みを持たれるような奴じゃない」
「仁は千明の何を知ってる? 千明もヤクザだ。恨みを持たれたって不思議じゃないだろう」
「それは……。でも」
「確かに千明は人に恨まれるような性格はしてないけどな。ああ、いや千早は千明を嫌ってたか」
「先輩が?」
「顔がそっくりの本妻の子と愛人の子。比べられる事が多かったからな。年も近いし」
「なんとなく、わかる」

署の外に出ると夕暮れ時だった。

「乗れ、俺が運転する」
千里が運転席へと回る。
「でも……」
「千早の言う通り疲れた顔をしてる。千明の目の当たりにしたからな。いいから乗れ」
仁は素直に助手席に座った。


助手席で仁は小学校の頃を思い出していた。

千明と遊んだ思い出。

「思い出した」
最後に千明に会った中学に上がる前の春休み。

「千明が言ったんだ、『オレがいなくなったら花冠をあげる』って。意味がわからなくて聞き返したら、いつかわかるって。その後、引っ越して行った」
「『オレがいなくなったら花冠をあげる』そう言ったのか」
「うん」
「ハナ……。いなくなったらって言うのが気にくわないが……。ハナの事か?」
「ハナ?」
「千明が飼ってるメスのシェパードだ」
「チィのこと……? チィ生きてるの?」
「チィって名前だったのか? 大分年だけど生きてる。事務所にいるはずだ。……犬の吠え声聞いたか?」
「聞いてない」
「ハナは番犬だ。吠えてないはずない」
千里と顔を見合わせる。

「事務所に、行こう」
仁の言葉に千里は車を右折させた。

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