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「千明」
人がいた。千明だ。
床に転がっていた。
千明の回りも血が付いていた。千明自身も血だらけだ。
千里の声にゆっくり顔を上げた。
「……さとにい」
「何があった?」
「よくわからない……」
小さく首を振った千明の顔が歪む。
「日立は?」
「……里兄に会いに本宅行った。……なんで千里兄、いるの?」
「すれ違いか」
ひゅっと千明の喉がなる。
仁はぞっとした。血は全部千明の血?
「仁、日立に戻って来るよう電話しろ。日立の指示に従え。短縮2番だ」
携帯を仁に渡し、千里は千明の身体を調べだした。
「やばいな、数発くらってる」
千里の台詞にさぁっと身体が冷たくなるのを感じた。
「仁!」
千里の声に身体がびくりと反応した。
「大丈夫か?」
「うん、電話すればいいんでしょ?」
むせ返る血の匂いにぐらぐらしながら日立に電話をかけた。
事情をなんとか説明し、日立に従い救急車と警察に電話した。
警察はちょっと考えた末、千早の携帯にかけた。
「サト兄?」
あの明るい千早の声がした。
「センパイ」
「……仁か? え、なんで兄貴の携帯から……」
「日立さんが警察にって。センパイに掛けたほうがいいと思って。千明が……」
電話の向こうで東雲組の事務所が襲われただのと声がする。
通報があったのだろう。
「仁、今どこにいる?」
「事務所」
「東雲組のか?」
「そう」
「すぐ行く。そこ、動くなよ」
わかった、そう言うのがやっとだった。
救急車よりも千早が来るほうが早かった。
「仁」
「センパイ……」
「千里兄は?」
2階を指差した。
千早が2階に上がった時、救急車が来た。
病院へは日立と千草が行った。
警察へは千里と仁が事情説明へ出向いた。
久しぶりの千早の顔。
「じゃあ、仁は東雲組の本宅にいたのか。……俺の実家ね。千里兄とどうやって知り合ったんだ?」
「さぁ」
そこのところの仁の記憶はないのだ。
「今、それ関係あるのか? 千早」
「ないよ」
千里の問いに千早は否定した。
「千明助かるよね、千里さん」
「当たり前だ」
仁は千里の肩に寄りかかると目を閉じた。
それを見た千早はなんとなく疎外感を感じた。
可愛がっていた後輩を兄に取られた気分だった。
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