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暑い。
暑い。
あついあついあつい。
仁は炎天下の中、千里を待っていた。
夏、真っ盛り。そして昼時。太陽は仁の真上にあった。
「あっちぃ……」
車に戻っていようと足を踏み出す。
すぐ戻ると言った千里が言うから車に戻らず待っていたが、限界とばかりに車に戻った。
「あ〜、生き返るぅ」
クーラーの冷たい風に息を吹き返した花のように背筋を伸ばした。
仁は今、東雲組の別宅に来ていた。
こんこんと窓を叩く音に顔を上げた。
珠希がいた。
慌てて窓を開ける。
「千里、今弾に捕まってて。当分戻れへんわ」
「弾?」
「弾に会ってへんかったっけ? そら挨拶行っとかなあかんな。東雲弾は東雲組のナンバー2や。千里らの従兄弟にあたる人なんやけど……」
そこで珠希は言葉を切った。
「千里は今日弾がいるのわかっててなんで仁を連れて来たんやろ。会わせるつもりならここに仁を待たせへんしなぁ」
「あ……」
向こうから千里と、もう1人。こっちへ歩いて来る。
「あれが弾や」
「ホストじゃないですよね?」
「まさか。そんなんゆうてみ。弾に殺されるわ。ま、確かにホストみたいやけど」
弾は綺麗な顔をしていた。
千里とは全然似ていない。
「お前が仁?」
仁は車から降りて頭を下げた。
「ご挨拶が遅くなりました。日下仁です」
「ふうん。おれ、弾ね。よろしく」
にこりと弾が笑った。が、目は笑っていなかった。
なのでむっとして弾を睨み付けた。
「おもしれー、こいつ。おれを睨んでるよ」
クスクス弾が笑った。
「珠希、行くぞ」
弾は珠希に声を掛けるととっとと屋敷に帰っていった。珠希は肩をすくめて後を追って行った。
「なに、あれ。カンジ悪」
「いつもの事だ」
千里車に乗り込む。それを見て仁も運転席に座った。
大概、後部座席に座る千里も仁と2人なら助手席に座る。
「仁、事務所に行ってくれ。日立に用が出来た」
「わかった」
仁は事務所に車を走らせた。
事務所に着くと付いて来いと千里が手招く。頷いて事務所のドアを開けた。
「な……に」
血だらけの床が見えた。
仁が後ろの千里を振りかえる。
「千明! 日立!」
いるであろう2人の名を呼ぶ千里。
返事はない。
2階に上がっていく千里に、仁も後を追った。
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