最強男 | ナノ


▼ 17

千里が直接踏み込むことはない。

「俺は千里を信じる」

ただそれだけだった。

「……雲雀さん、おかしい」
「は?」
「俺を会わせないとか言ってて、千里さん達が踏み込んでくることを想定してる。どうして? 本当に返したくないなら、弾の家に連れてくるのはおかしい」
「灯台もと暗しって言うだろ」
「言うけど」
「どのみち、千里はどこにいても突き止めるさ。多分、いや、確実に克己の家に今朝動いた事は千里に入って来てるだろうしな」
「じゃあ、千里が来る?」
「さぁな。まぁ、ここもすぐ見つかるだろうな」
呑気に雲雀はそう言った。

「雲雀さんは俺の助けが来て欲しいの?」
「そんなわけないだろ。でもそうだな。来るなら来てみろって思ってる」
「どうして?」
「さぁな。一ついい事教えてやるよ。俺も千里自ら来ればいいと思ってる」
「え?」
「そうだろ? あいつが来なきゃ意味ないしな。それにここにいるのは仁だ。千里の愛しい愛しい仁がいるんだぜ? 人任せにしちゃあな」
「そう、ですね」

仁は少し意外に思った。千里は雲雀にとっては憎い相手だ。あまり会いたくないのじゃないかと勝手に思っていた。

「案外、雲雀さんていい人ですね」
「いい人? 初めて言われたな。俺はいい人じゃあない。仁、忘れるなよ、俺にされた事。怖がった事」
「忘れはしないですけど……」
「あんまりダメージうけてないな」
「十分受けてます……」
がっくりうなだれて、そこでくしゃみをした。

「風邪ひくな。着替えて来いよ」
「いいの?」
「されたいのか?」
慌てて仁は首を振ったが雲雀が覆い被さって来る。

「ちょ……、雲雀さんっ」
「運動すればいい」
「雲雀さんの言う運動って」
「セックス」
「や、です」
雲雀の手が仁の肌に降りて来る。

「前より感度上がったよな。お前」
「か、感度!?」
「多少、タフにもなった。前ならここでぐったりしてたもんな」
「……」
仁が黙る。雲雀はククッと笑う。

「俺、優しいか?」
雲雀の手が肌を滑っていく。

「……っ」
「ほらな。敏感だ。仁、あの時のように怖がってはないな、お前」
「……うん。や、怖いけど前ほどじゃない、かな」
雲雀はふうんと答え、手を止めた。

「黒田がいないから?」
「それもあるけど。 ……ね、雲雀さん、俺まだ思い出してないことある? なんか引っかかってるんだ。なんで、俺黒田さんが怖いんだろう」
「さぁな。黒田と俺はお前とあの時の1度しか会ってないからな。黒田が怖いなら俺も同じように怖がらないとおかしい。けどな、仁」
1度区切って雲雀は続けた。

「お前にとっては黒田の方が印象に残ってたんじゃないのか」
「そうなのかな?」
「記憶なんて曖昧なものだしな」

耳元で仁、と呼ばれた。
仁は避けようとして腕を取られた。

「……雲雀、さん?」
「しようぜ」
雲雀の手を振りほどこうとする。

「他意はない。ただお前を抱きたいだけだから」
「何、言って……!」
握られた腕に力が入り、また囁かれる。

「千里はどうやってお前を抱いた?」
そこで目が合った。雲雀の動きが止まる。

「どう、って……」
ちっ、と舌打ちが聞こえた。雲雀が目を逸らす。

「……雲雀さん? え、まさか……」
「んなわけないだろ」
「まだ何も言ってないんだけど」
「じゃあ、言うな」
仁はわかってしまった。

多分、雲雀が舌して目を逸らさなければわからないままだったかもしれない。

「千里の事、好きなの?」
「そんなわけないだろ。この俺が。馬鹿も休み休み言え」
「……だから余計に憎いんだ」
「余計ってなんだ、勝手に推測するな」
「推測っていうか事実でしょ?」
「何が?」
「雲雀さんが千里をすーー」
「黙れ」
雲雀は怒鳴る。

「仁。それが事実だとしてもだから何々だ? そうだろ?」
「雲雀さん……」

なんでもないような雲雀に仁は眉尻を下げる。

「事実じゃないのに同情したような顔するな」
あくまで事実ではないと雲雀は言う。それが仁には痛かった。

雲雀が不憫だ。だけれど、千里は珠希や仁のものだ。雲雀はそれを多分わかっている。

そして、雲雀は千里が好きで、でも憎いのだ。

いや、雲雀の好きは恋のようで違うのかもしれない。

憎む行為はある意味恋だと仁は思う。相手を思い続けるのは同じだ。

「雲雀さん」
「何も言うな。変に同情するな」
「ストックホルムシンドロームっていけない事? 雲雀さん」
「喋り過ぎたかもな。お前、めんどくさい」
覆い被さっていた雲雀がさわさわと仁の肌を触っていく。

「雲雀さ、んっ……!」
「感じたか?」
小さな笑い声。

「風邪ひくなよ」
「じゃ服着るんでどいて下さい」
「嫌だ。お前案外素質あるかもな」
「何の」
「SM」
「は?」
何を言い出すんだと仁は雲雀を睨んだ。

「痛いの嫌いじゃないだろ?」
「そんなわけっ! ……っ!」
ぎゅっと萎えた仁のを握り鈴口に爪を立てた。

「ほら、お前タってきた」
「……嘘だ」
雲雀は仁に仁自身を握らせた。

くすりと雲雀が笑う。

カッと仁は頬を朱く染めた。

「止まった血が出てきた」
雲雀が口を寄せ、ペロリと舐めた。

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