最強男 | ナノ


▼ 16

「うぜー……」
雲雀の呟き。

踏み込みすぎたかと思ったが雲雀から後の言葉は続かなかった。

「俺はっ! 早く帰りたいし。でも、雲雀さんをほっとけない」
「ストックホルムシンドロームって知ってるか」
「それだって言いたいの?」
「違うのか?」
「犯されて風呂に放置されてるのに?」
くっと雲雀が笑った。

「……俺に情を移すなよ。仁。帰りたくないならいいけどな。帰りたいと思ってる間はやめとけ」
「……雲雀さん?」
「やめとけ」
雲雀はそう言って静かになった。

「雲雀さん。俺にいてほしいの?」
返事はない。足音が遠ざかる。

仁にはそうとれた。

雲雀の周りに誰もいない。
雲雀はそう思ってる。

情を移すな、と雲雀は言った。

「……雲雀さん、案外……」
仁は小さく笑う。

「ストックホルムシンドロームか。そうかもね……」
つい頭を突っ込んでどうにかしてあげたくなる。そこはもう、仁の性格だ。

「……」
雲雀は絆されないよ、と言った。

「雲雀さん……?」
もしかして、と思う。

本当は絆されてる?

だから、逃げた? 今、仁の側に雲雀はいない。

「俺、もしかしてメンズキラー?」

何、メンズキラーって!
自分で言って心の中で呟く。

口悪い弾も仁にはそんなことない。
朱里も仁に目をかけてくれる。
千早もそうだ。

仁に良くしてくれる。

「千里、俺帰るから……」

よし、と湯船から立ち上がる。足は縛られてないから歩けはする。

雲雀はリビングで煙草を吸っていた。

「雲雀さん、タオル……」
「風呂場」
「手、使えない」
「そのままいれば?」
煙草の灰を灰皿に落として、顔だけ覗かせる仁を見る雲雀。

「周り濡れていいなら」
「俺ん家じゃねーし」

そういえば弾の家だと雲雀は言った。

よく見れば確かに内装が克己のマンションと違う。

シンプルだが、こだわりを感じさせる。

「ここが弾の家?」
「黒田と住んでる」
「ふうん……」

雲雀が近付いてくる。頭からバスタオルをかけられた。

「逃げるなよ」
「逃げないよ。約束したんだ、克己と」
「馬鹿だろ」
「そうだね」

雲雀はちゃんとバスタオルを用意してくれた。

雲雀が腕を縛っていたものを解いてくれた。

腕の感覚がない。その腕を掴まれた。

「……っ」
「油断するなよ。もうしないとでも思ってるのか」
「ヤったこと、千里は知る。それで千里は怒る。怒らせるのが目的なら果たしてる。これ以上何の意味があるの?」
「お前のそういう聡いとこ嫌いだな」
「ありがとう」
無感情に返事を返す。

「お前、案外一筋縄ではいかないタイプだな」
覗き込んでくる雲雀の目も感情がなかった。

「ヤることに意味があるあるんだよ。仁がボロボロになればなるほど、いいね。そうすればあいつは後悔するんじゃね? 自分のしたことを」

千里が雲雀に何をしたのか。仁は気になっていたが雲雀はそれについては口を噤んだままだ。

「雲雀さんは千里に謝らせたいんだよね? じゃあなんで克己がいるの?」
「さぁな」
話は終わったとばかりに雲雀は仁に背を向ける。

「仁」
「賭けないか」
「賭け?」
「千里が来るか、黒田が気付いて黒田か弾が来るか」
「千里が来たらお前の勝ち。黒田か弾が来たら俺の勝ち」
「……何企んでるんですか」
「企む? 何も企んでない」
疑わしげに雲雀を見る。

「勝てばどうするのか仁が決めればいい」
「わかった。いいよ」
仁は賭けにのった。

「もし仁が勝ったらどうする?」
「帰るよ。千里の元に」
「俺が勝ったら?」
「……雲雀さんの元にいる。俺を好きに使えばいい」
「ヤり殺しても文句はないわけだ?」
ニヤリと雲雀がほくそ笑んだ気がした。

「千里が来るから、絶対」
「絶対、ねぇ……」
バカにしたように笑う雲雀に腹がたつ。

雲雀は黒田かもしくは弾が来る事に自信があるのか。

「自信がありそうですね」
「まぁね。ま、まず、千里じゃない。弾あたりが一番妥当な線だろうな」
「弾じゃなければ黒田さん?」
「黒田はどうかな。案外、朱里かもな」
「どうして千里じゃないと雲雀さんは思うんですか」
「考えてみろよ。千里は東雲組の組長だ。東雲組がどれだけでかいか知ってるか? 分家の組、その下にも組がある。その頂点が東雲千里だ。組織を束ねる長が自分で動くなんて出来ない。一番先に踏み込むのは千里じゃない」

言われてみれば確かにその通りだ。千里が動くことは、ない。

仁を助けるにはまず幹部に命令を下し、下の者をつかい、仁を捜すだろう。そして仁が知る人物が踏み込んでくる。

それならば、確かに弾や黒田が踏み込むのはのが妥当なところだ。

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