最強男 | ナノ


▼ 18

ピリッと傷口がしみる。それに眉をしかめる。

「やっぱ似てるな。神流さんに。ああ、わかった。なんでお前が俺に警戒心がないのか」
「……ないわけじゃ……」
困ったように仁は苦笑する。

「……俺や泰介とかさ、義理の兄弟なんかは父親代理が神流さんだった」
雲雀の手が止まり仁の肩にタオルがかけられる。

「神流さんの話はしてやるよ」
「あ、はい」
仁も大人しく聞く態勢になる。

「……えと、時雨さんじゃなく?」
「あの人がするかよ。そもそも子供嫌いな人が」
「え、でも……」

千里達兄弟の面倒は時雨がみていたはずだ。

「時雨さんがみたのは本家の子供だけだ。最初の頃は四苦八苦していたとか神流さんに聞いたことがある」
「そう、なんだ……」
意外だと思った。子供好きの子供に好かれるようなイメージのある人だからだ。

「俺らは東雲にはなれなかったけど、千鷹組長は俺らに金出してくれたよ。まぁ、中に東雲になった妾の子もいるけどな」
それは多分、千明を指しているのだろうと仁は頷く。

「私立なんて行かせてくれたし、妾の子とはいえ、金に不自由はしなかったし、神流さんにもなにかと良くして貰った。知ってるか、神流さんと千鷹の仲」
「あ、前にちょっと千里に聞いた事がある。神流さん、千鷹さんに恋してたって」
「その通りだ」
雲雀は頷いた。

「身体の関係、あったのは?」
「あったんですか」
仁は驚いて雲雀の目を見る。

「あったよ。千鷹組長は時雨さんとも身体の関係はあるんだし、おかしい事じゃないだろ」
「そう、だけど。ピンとこない」
「まぁ、お前、千鷹組長を知らないしな。そうかもな。時雨さんとは違って、隠れて会ってたりしてたみたいだ。おおっぴらに会えないだろ。神流さんは千鷹組長の“日立”でもないしな」

千鷹組長、どんだけ浮気してたんだとちょっと呆れ気味に仁は続きを聞く。

「あの、千鷹組長ってそんなに浮気してて、その……春灯さんになんか言われたりしなかったんですか……?」
「さぁ? 春灯さんがそれを千鷹組長に文句言ってるトコを見たことないな。ないだけで影ではあるかもしれないけどな」

考えてみれば子供にそんなところは見せないだろう。

「神流さんはあまり喋るほうじゃないし誤解されやすい人だと思う。でも、俺は神流さんを尊敬してる。……お前はそんな神流さんになーんか似てるんだよな。だからつい……いや、ま、だから、お前に甘くなるのかもな。そしてお前は敏感にそれを感じ取る。だから黒田ばっかり怖がる」
自分でもよくわからない。だからなんと答えていいのかわからない。

思い返せば酷い事をしたのは雲雀であって黒田ではない。確かに黒田も仁を抱いたが、血を出させたのは雲雀だ。

なのに、雲雀ではなく黒田が怖いのは雲雀の言う通りそうなのかもしれない。

「神流さんは今、どんな仕事をしてんですか」
「聞いてないのか? 東雲組の幹部だぜ? 千森さんの“日立”でもある」
「あ、幹部っていうのは聞いたような。でも、“日立”なんですか? 千森さんて?」
「千森さんは千鷹組長の弟だ。その人の“日立”だ。日立が東雲組の幹部になることはまずない。日立は“日立”として東雲や新居にボディガードとして仕える。けっして幹部として東雲組を支える一族じゃない」
「……それは神流さんが東雲組の幹部になるのが容易くなかったって事?」
「そうだな。今じゃ幹部としていなけりゃならない人になってる。千森さんの“日立”をしながらだからな。多忙な人だ」

雲雀の瞳は神流を尊敬してやまない、そんな目をしていた。尊敬する気持ちに嘘はないだろう。

「神流さんって凄い人なんだな」
「ああ」

千里が時雨さんを尊敬するように、雲雀は神流を尊敬していた。

「雲雀さんは、千鷹組長をどうみてたのかなぁと」
「あの人は、そうだな。顔を合わせるのは年に数回だ。俺ら義理の兄弟の中じゃ足長おじさんが近い。それでもやっぱり父親だった、な」
「父親……」
「春灯さんもそうだな。生みの母親じゃないけど、別に疎まれもしなかった。ただ、千明は別」
「別?」
「千明の母親が凄い人だったからな」
「どう、凄かった?」
千明の母親は優しかった。いつもにこにこして明るい人だった。

「千明の母親、鶴子さんていうんだけど、あれは鶴子さんが本妻かって思うくらい千鷹の側にいた。あれじゃあ、春灯さんが怒るのも無理ない。まー、他の妾よりは東雲になれた人だから、他の妾より自分は上だって思ったんだろ。それに春灯さんは平等だった。 それ、鶴子は気にくわなかったんだろ。春灯さんを下に見た。一時期、鶴子さんの独裁制になってたけど、春灯さんがぴしゃりとやめさせた。あれは子供ながらすげーと思ったね。器が違うよな」

仁は春灯には会った事がない。千里の母親。

「春灯さんも実家がどっか東北のほうの小さな組の長女だと聞いた。芯の強いヤマトナデシコだ。立てば芍薬座れば牡丹。あれ、地でいってる。綺麗な人だよ」
綺麗というのはわかる気がした。千里達兄弟を見ていればおのずとわかる。

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