最強男 | ナノ


▼ 22

「で、作戦会議は何の作戦を立てるんだ? 東雲組で話し合ったんじゃないのか?」

渚が真面目な顔をして聞いてくる。

「ああ。そこに組み込もうと思う。明日、組が動く。具体的な計画がある訳じゃない。けど、いける。明日、俺と千歳は久遠寺組の組長のとこへ行く」
「はぁ? 大丈夫なん? しかも千歳も?」
「千歳を連れてく意味は、ある」
「あんの?」
「ある」
「……。勝算あるから連れてくんよね?」
「ああ」
「気、付けて行き。うちはここで待機しとく」
「珠希、サンキュー」
ふっ、と千里は笑った。

「うちは、千里を信じとんねんから。千里、絶対口にしたことをやり遂げる人やし嘘吐かへん」
「違う。言えば、しなきゃならない。それが難しいものでも」
「すげーな。オレは言えないなぁ。言葉にするなんて」
「俺だって言葉にするのは正直怖い」

怖い、という千里を見るのは珠希も渚も見たことがなかった。千里は決して弱みを見せない。

「うち、そんな千里も好きや。うちらにそんなとこ見せるようになったんは、仁のおかげかもしれへんなぁ。今まで千里、気ぃ張ってピリピリしてたから。今の千里悪くない」
「そうか……」
ふっ、と千里が笑う。

「渚。明日、ここを出て、仁を連れて帰るまで戻らない。それまで……。珠希、紘さんの返事は?」
「任せてくれってゆうてくれた」
千里は頷く。

「それまで、ここを千紘さんに頼む」
「わかった」


明日、東雲組が動く。

待ってろ。
千里は仁に向かってごちる。

仁の側には必ず久遠寺と雲雀がいると千里は確信していた。

「黒田のとこにでも行ってくる」
「待ち。千里、黒田が一枚噛んでんとちゃう?」
黒田は雲雀と仲がいいし、昔から、よく2人でいた。

「さぁな。そこを詳しく聞きに行くんだ」
「黒田が喋るやろか」
「喋らせる」
立ち上がった千里がリビングを出ようとした時、珠希が引き止めた。

珠希が庭を見ていた。千里も庭を見れば、そこに黒田が立っていた。

「話がある」
「黒田……。来い」
千里はリビングを出て客間へと連れて行った。

上座のソファーへ千里が座る。
黒田は下座のソファーの横に立ち、座ろうとはしなかった。

何か言いたそうに、だが、黒田から言葉を発せずにいた。

「ここまで自分から来たことは評価してやるよ、黒田」
「あの日、日下君を見つけたのは偶然だった。恭さんに呼ばれて横浜に行った帰りだった」

黒田の言うあの日は、千里が仁を見つけるその日、黒田は仁といた事がわかっている。
その日の事だった。

「まだ雨も降ってなくて。ふらふらと横浜駅方面へと歩いてた」
「歌舞伎町でお前と仁は歩いていた。歌舞伎町に仁を連れて行ったのはお前か?」
「そう、俺だ。日下君が歌舞伎町に行きたいって、言ったんだ」
「仁が?」

仁が歌舞伎町に何の用事があったのか。

「日下のおじさんが歌舞伎町でキャバクラのオーナーをしてる。東雲に上納金払ってるよ」
「名前は?」
「黒田晴尚(ハルナオ)」
「黒田?」
訝しげに黒田を見る。

「黒田晴尚3人兄弟で。晴さんは俺の親父の弟に当たる。つまり……」
「仁と従兄弟?」
黒田は小さく頷く。

「あの時は、日下君と従兄弟だなんて知らなかった。うちの親父は俺の小さい頃死んだから。親父の親戚と交流がなかった」

で? と、千里が先を促す。

「東雲組に俺が入ってから、晴尚おじに会って、知ったんだ。日下君が従兄弟だってね。……日下君はおじさんを頼りにそこへ行こうとしてた。だから、俺は歌舞伎町まで車で送った。その時点で日下君はぶっ飛んでた」

あの日、確かに仁は飛んでいた。その時の記憶はないというのは千里も知っている。

「黒田晴尚、か」
黒田晴尚を千里はよく知っていた。

仁のおじだったのかと黒田晴尚の顔を思い浮かべる。

「仁は探偵事務所で俺と会った時、俺を怖がった。覚えてないのに。でも、あの日、仁は正気じゃなかった。ほいほい付いて来たからな」
「覚えてない、って言うのは雲雀とレイプしたやつか」
「……やっぱ、知ったんだな。そう……、レイプした」

千里が黙る。

「怒れよ。千里!」
「覚えてないってどういう事だ」
黒田のその声を遮るようにして千里は聞いた。

「雲雀が半分冗談で暗示かけたんだよ。まさかホントにかかるなんて思ってなかった。……雲雀といるなら思い出すだろうな」
きっと雲雀は暗示をとく、と黒田は言う。

「座れ」
千里は黒田にソファーに促す。

「……なんで怒らない?」
「怒ってどうする? その過去がなくなるのか? お前は雲雀といたけれど、もっと賢い奴だと思ってた。……座れ」
千里は再度促した。

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