最強男 | ナノ


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座るのを見届け、千里は息を吐いた。

「千里。俺は日下君に裏切るなと言った。東雲組の中では俺の味方は殆どいない。でも、俺は日下君だけでも味方になって欲しいと思った」
「仁に避けられるかもしれないのにか」
「甘いよな」
自嘲気味に笑う黒田に千里は身を乗り出した。

「お前も手伝え。少しは周りもお前を認める奴がいるかもしれない。けどな、雲雀には恨み買うかもしれない。どうする?」
「……俺は一人でいい。信頼出来る奴が欲しい」
「雲雀は信頼出来なかったか?」
「千里はしてないだろ。それには答えない。答えたくないわ。つか、もうわかるだろ」
「お前は仁を選んだ」
「まぁ、そうなるね。だから、千里に付く。手伝うよ。それに日下君を1人にした責任もある」
「弾と組め。弾に従え。できるだろ」
「俺が弾を好きだから?」
「それもあるし、今、お前はナンバー2だろ」
「ああ、そう言えばそうだったね」
忘れていたかのように黒田はそんな事を言った。

「圭介、戻すんだろ。いつ?」
「真面目に仕事しろ。圭介の事は気にするな」
「俺が居座っていいわけ?」
「ああ。圭介は圭介の仕事をさせる。圭介にピッタリな仕事がある」

ふうん。
と、黒田は頷いて、千里を見据える。

「なんで、俺だった? なんで俺を指名した? 他にも適任がいたろ」
「……いた」
千里が黒田の顔を見る。

「仁とお前を会わせたかった。仁が、お前がどんな反応するのか。まさかその時はお前等が仁に手を出していたなんて思ってなかったけどな」
千里の声が低くなる。

「責任があるなら、その責任を全うしろ。仁に償え。いいな?」
「千里はそれでいいのか?」
「いい、悪いじゃねーんだよ」

はっ、と黒田は千里の瞳を見た。

先程の千里にはなかった鋭い眼光。黒田を黙らせるに十分な殺気。

黒田の身体に冷や汗がどっと出たのがわかる。

「雲雀を引っ張り出して来い」
「……っ、わかった」
黒田が立ち上がる。部屋を出ようとして立ち止まる。

「……俺、後悔してる」
「後悔してる? 遅いんじゃねーの? お前は雲雀が仁にまた手を出すのを黙って見ていたんだろ。違うか、黒田」
「……そ、れは」
「後悔、ね」
せせら笑うと千里は黒田の横を通り過ぎた。


角を曲がればそこに千草がいた。

「千里。駄目だよ、組員が怖がる千里に戻ってる」
ポンポンと優しくあやすように頭を撫でられる。

「千草……」
「ほら、見て。僕の後ろ」

千草の後ろ。千里の正面。
千里は千草の肩越しに見た。

千歳が困惑気味に千里を見上げていた。

「千歳。……おいで」
両手を広げてしゃがむ。

「……」
けれど千歳は来なかった。

子供は敏感だ。
そう言えばと思い至る。千里がピリピリしているときや怒っているとき、千歳は決して千里に近づかない。

「……悪い、千歳」
諦めて腕を落とす。

よく思い返せば千歳を抱っこしたりするスキンシップをしたりする事はあったが、仁が来てからのほうが千歳を抱きしめたりする回数はずっと多かった事に気付いた。

「仁って、すげーな。兄貴」
「うん。そうだね」
にこりと千草は笑顔を見せる。

千里の考えを読み、頷き理解する兄も仁並にすげーよ、と心の中で笑う。

「ほら、もっと笑って」
千草が千歳を見て千里を小突く。

「千歳、もう大丈夫だよ」
千草が手招きする。

おずおずといったていで近付いて、千草の千草のすぐ後ろまで来て千里を見上げる。

そんな千歳を千里は抱き上げた。


『しょうがねーなぁ、千里は』
そう言って抱き上げられ、頭を撫でられた記憶がふと思い出される。

今の今まで忘れていた。

「千里?」
動きを止めた千里を不思議そうに見る千草に、いや、と首を振る。

あれは時雨じゃない。千鷹だ。
千鷹が千里を抱き上げた。

腕の中にいる千歳を見る。

今の千歳同じくらいの千里は、こうして千鷹に抱いて貰っていた。

小さな頃は千鷹も千里に愛情はあったのか、と気付く。

千鷹に可愛がられた記憶はあるにはある。が、厳しく接する千鷹の記憶の方が遥かに多いし、千鷹に楯突いたかわからない。

千歳の顔を見る。
千鷹のように千里は千歳に接するようになるのだろうか?

あまり認めたくはないが千里は千鷹に似ている。周りもそう言う。

千歳は千里の本当の子ではない。けれど、千鷹は千里の小さな頃によく似ている。

「東雲なんだな、千歳も」
きょとんと千里を見る千歳。

千歳は東雲の血が濃いのかもしれない。

「なんでもない。千歳、俺はお前が可愛いよ」
照れたような千歳をぎゅっと抱く。

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