最強男 | ナノ


▼ 15

精液だけでお腹が痛くなったわけじゃないようだ。

そのまま雲雀を呼ぶでもなく便座に座ったままどうしようかと考える。


どれくらいたっただろう。

もう、仁には時間の感覚がわからなくなっていた。

今、何時頃なのかも。

「……いつまでいるつもりだ。お前」
そもそもトイレのドアは開いていた。

ドアの横に雲雀が立ち仁を見下ろしていた。

「……」
答えようがなく雲雀を見返す。

「風呂、入れてやるよ」
洗浄ボタンを押し、トイレは流れた。

再び抱えられ、いつの間にか湯が張られた湯船にそのまま放り込まれた。

文字通り、放り込まれた。

頭と足を打ちつけて、腕を縛られてるために手が使えない。身体を起こせなくて溺れそうになるところを引き上げられた。

げほげほ、咳をした。

風呂でおぼれる羽目になるなんて思っていなかった。

「悪い。後で冷やしてやるよ」
「……」

優しいのか優しくないのかわからない。いや、優しいわけではないが、優しさがないわけではないように思った。

悪いと思ったことを謝れる人なのだから。


「わざとじゃないからな?」
降参ポーズの雲雀を見る。

頷くと濡れた髪をかき上げる雲雀の指。

「……わりとさ、仁の事、気に入ってんだぜ? なんでかわかるか?」
「ゴホッ、……さぁ?」
「お前の目。神流さんに似てる。なんていうか筋が通ってる一本気な目してる。その目が俺を見る。割と好きな目、してんだよ」
「神流さんって」
「神流さん、知らねーの?」
湯船のヘリに座り雲雀は仁を見る。

「日立神流」
「2度ほど会ったことはありますけど……」
一度目は挨拶まわりをした時。2度目は幹部会が終わった後、千歳が神流の大事な手紙を破ってしまった後。

「時雨さんの従兄弟にあたる人。真っ直ぐ人の目を見て、自分がこうと思うことを貫いてる。お前、そういうタイプだろ」
「そう……かな。そうかも」

嫌われてはない気がすると、雲雀を覗き込む。

「……お前、警戒心はなくすなよ。それが命取りになる。だから、俺に捕まる」
「……」
「真っ直ぐなのはいいよ。長所だ。でも短所でもある。考えてることがまるわかり」
「神流さんも?」
「あの人は、表情が読めないからな。お前みたいに喋るタイプじゃないし。隙がないから、案外わかりやすそうでわかりにくい」
「そうなんだ」

神流への印象は武道派。とっつきにくそうな人を寄せ付けない感じを受けた。

「……そうだ、仁。黒田と俺の違いって何だ?」
「……え?」
「お前、黒田を怖がったんだろ? けど、俺にはお前、無警戒だった。なんでだ?」
「……」

なんでだろう。
仁自身もよくわからず雲雀を見返す。

「仁は……アレだな。警戒心がなさ過ぎて、こっちもそれにつられそうになる。絆されそうになるな。……なんだろうな」
雲雀が複雑な顔をして仁を見ていた。

「犯して犯して犯しまくってやろうと思ってたのにな」
「……」
「克己の歯形、痣になってるな」
鎖骨の辺りをなぞられる。

「俺は、優しくないよ。仁。絆されねーよ、黒田みたいに」
「……黒田さん」
「あいつ、仁に絆されちまいやがった。案外、俺を売った……裏切ったかもな。結局、信用出来る奴なんていない」
「そんな事ない」
信用できる奴はいるはずだ。

「じゃあ、誰がいる? 言えよ」
「雲雀さんの交友関係なんて知らないから」
「お前が知ってる奴でいい。誰もいないじゃん。黒田の名前上げるなよ。あいつは裏切った」
「黒田さんは、裏切らないよ。裏切ったと思う雲雀さんが、黒田さんを信頼してないんだ」
「……言うな、お前。物怖じしないっていうか」
「言うときは言いますよ」
「ふうん? この状況でなぁ。馬鹿だろ」
雲雀は風呂場から出て行った。

今の状況では何も出来ない。
腕も縛られてから大分経つ。腕の感覚は痺れて感覚はなくなっていた。

今、雲雀の機嫌を損ねるのは良くないのはわかっているが、仁は足掻いていた。

この状況を脱するきっかけを探すんじゃない。雲雀と千里の仲をどうにかしたかった。

「雲雀さん!」
返事はない。けれど聞こえているはずだ。

「どうしたいの! 千里とどうなりたいの!」
「さぁな。ただ、今を変えたい」
すぐ近くで声がした。すぐそこにいるようだった。

「今じゃないでしょ? ずっと前からでしょう」
「そうだな」
「俺が東雲に来たから、また雲雀さんは動いた」
「そうだ」
仁は目を伏せた。

「俺をどうするの?」
「言ったろ。千里には会わせない」
「じゃあ、俺はどうしたらいい? 雲雀さんの味方したらいい?」
「味方? なんでこういう事になってるのか知らないくせに」
「だから、教えてよ!」
仁は怒鳴った。

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