最強男 | ナノ


▼ 10

御守りを握り、そして克己に気付かれないようにポケットに入れた。

「縁、お前は絶対帰れない」
断言する克己を無視する。

千里は必ず来る。仁は千里を信じていた。

「帰るよ。千里は来る」
「……絶対に来れないよ。賭けてもいいね。縁……いや、仁の元には来ない」
「どうして」
克己は答えなかった。ただ、にんまり笑っただけだった。

「千里は来る。岳だって、連れて来るって言った」
岳は決して嘘は付かない。
「信じてるなら俺と約束出来るよな」
「約束?」
「東雲が来なかったら、仁、お前は俺のものだ。猶予は3日」
「……」
「出来るよな。約束、いや、誓約だな」
克己は紙とペンを取り出し、仁に突き出した。

「書いたところで、はっきり言えば法的効力はないだろうな。けど、東雲がこれを見たとき、お前の意思は伝わる。お前の字で書くわけだしな」

「法的効力はない?」
「たぶん。あるかもしれないし。俺、法には詳しくないからわからないけどな。でも、東雲を信じてるなら書けるだろ」
紙とペンを見つめ、仁は考える。考えたのは、だが一瞬だった。千里は来る。

「何て書けばいい」
にやっと笑い、克己がリビングの椅子に座る。

誓約書、と丁寧な文字が書かれる。
克己は誓約書を書いていく。そして仁の名前を入れるところで紙を仁に向けた。

「名前、入れろ。あと拇印な。今日の日付と」
引き出しから朱肉を取り出す克己は、笑っていなかった。

もしかしたら、この誓約書は法的な誓約書になるかもしれないと思った。
誓約書自体は、書式は日付も入る本物だ。コピーでもない。

「……縁。俺は強制はしてないからな」
「……」
強制され書かされたものなら良かったと仁は思った。書かなければ、千里を信じないことになる。

「……克己。これ書いたら、俺は千里を信じたっていう証明になる」
「そうだな」
「書かなかったら信じないことになる」
「ああ」
「……下手にこんなのに名前は書けない。こんなのがあったら、話がややこしくなる。俺は書かない」
「賢明だ。馬鹿ならここで名前書いちまう。けどな、岳と麻斗に人質ならどうだ?仁は書かざる得ない。岳を捕まえるのは東雲と離れてから、拉致ってやるよ。麻人はそろそろだ」

そこに雲雀が入ってきた。

「克己、連絡来たぜ。麻斗は例のとこな」
「仕事早いな、辰巳。そうじゃなきゃな。大分たってから岳に連絡いれてあげろよ、雲雀」
「麻斗が、何……」
仁の顔は青くなっていた。

「車、運転してた奴。あれが正妻の子だ。辰己。……でも、あいつは俺に逆らえない。そういう風にしつけてきたからな」
克己は楽しそうに笑うと、雲雀に聞いた。

「なぁ、桐生どうした?」
「捨ててきた。総本家に。あそこならすぐには千里に連絡しない」
「なんで」
「総本家に椎名を知る奴がいない。椎名が気付くまで奴が誰か気付かない。椎名は総本家の連中と顔を会わせたことがないからな」
「そうなんだ? それはそうと、なんで来るのが早いんだ」
「悪いか?」
雲雀はにやりと口の端を上げた。

「あー、そういうこと。じゃ、俺は用事済ませるわ」
リビングを出ようとした克己の腕を雲雀はぐいっと引っ張った。

「な、何? 3Pはお断りだ」
焦ったようにどもる克己に雲雀は声を上げて笑った。

「忘れ物」
雲雀が渡したのは車の鍵だった。

「してもいいけどな。お前よりは仁抱いた方がいい。明日の朝まで帰ってくるなよ」
「ヤり殺すなよ」
「手加減出来たらな」
「……」
ちっと舌打ちして克己は鍵を受け取る。仁を見れば雲雀を見ていた。

行ってくる、克己は外に出て行った。

「仁」
「はい?」
「オレの事、怖くないわけ?」
「どうしてですか」
「黒田の事、すっげー怖がってて、オレを怖がらないっておかしくないか」
「え?」
言われている意味がわからなくて首をかしげる。

「まだ思い出さない?」
「どういう……」
はっと仁は顔色を変えた。

雲雀の仁を見る目がそれまでと違った。仁を見据える目は今にも切れそうな冷たい目をしていた。

「仁」
名前を呼ばれてビクリと身体が震え、目をそらす。

「思い出せ。仁。あの時みたいに怖がれよ」
「あの時?」
何かが頭の中で触れるが、尻尾を捕まえられない。

「あの時、黒田がいた。俺もいた」
ソファーの上に仁は押し倒された。

「あの時みたいにヒーローは来ない。ま、あれもヤっちゃった後だったから遅いんだけどな」
クスクス笑う雲雀を見上げる。どこかで見た気がした。

「再現してやるよ。きっと仁の身体は覚えてる。黒田がいないからな、完璧な再現は無理だけどな」
雲雀の冷たい目が仁を貫いた。

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