最強男 | ナノ


▼ 5

部屋の斜め向かいがトイレだった。克己はその隣に入っていく。そこは風呂場だった。

仁が出て来ると洗面所で歯を磨いていた。水で濯ぐと克己は言った。

「風呂入れよ」
風呂場を差す克己に素直に頷く。

「そこの引き出しに下着入ってる。服は部屋のクローゼットから適当に。あがったらリビング、あー部屋来る時曲がり角あったろ。その奥リビングだから来いよ」
「わかった。……でも、付いてなくていいのか。逃げるかもしれないのに」
「お前は逃げない」
そう言って克己は着替えに行った。


そこで何が何でも逃げてやろうと思わないところが仁だった。
だが、仁だってチャンスがあれば千里の元へ帰りたいのだ。

今日は仁をどこか違う場所へ移すと言った。その時チャンスが巡ってくるかもしれない。

千里もきっと捜してくれている。絶対に帰れると信じて、久遠寺組で足掻こうと思った。巧くすればもしかしたら久遠寺組の情報を掴めるかもしれない。

掴んでもどう東雲に流すかが問題だがそれは掴んでから悩もうと思った。


さっぱりして風呂から出てリビングに行けばいたのは雲雀と多分仁より年上の男がいた。

「……あれ」
振り返ったその顔に見覚えがあった。桐生だ。
今回も前回同様派手なシャツを着ていた。シルクの赤。光沢のあるワインレッドだ。パンツは黒。椅子に掛かるジャケットも黒のようだ。その裏は着ているシャツと同じワインレッドで金の刺繍が見えた。
ブラウンだった髪は金髪になっていた。
その髪には兎の髪留めが2本刺さっていた。

「仁だ。久し振りじゃん」
「どうしてここに」
「歌舞伎町でホストクラブ行った帰り。雲雀先輩のコーヒー旨いから飲んでるところ?」
疑問系で桐生は言った。

「桐生組と久遠寺組が結託して……?」
「久遠寺組? あー、あの幅言わせてる組? 嫌いなんだよね、あの組。まじで潰しちゃいたい」
あれ?と仁は首を傾げる。
ここ、この場所は久遠寺組の息がかかっているのだ。

「いつでもサトちゃんの邪魔する奴、消したいのに。……ねぇ先輩、小耳に挟んだけど久遠寺組に出入りしてるってほんと? サトちゃんにバレたらやばいんじゃない?」
雲雀は意味深に唇を薄く上げて微笑んだ。

「千里より情報早いな」
桐生の目が鋭くなる。

「裏切るのか、サトちゃんを」
「裏切る? 裏切ったつもりはないよ。裏切りなんてしてるのは圭介や泰介だろ。それに、東雲組と盃交わしたわけでもない」
「盃を交わすも何も先輩、身内じゃん」
その桐生の言葉で義弟と言うのは嘘ではないと仁は確信した。


桐生は千里と同じ年だと思っていた。違うのだろうか。


「あの、桐生さん」
「何」
鋭く睨まれた。
この人はナリは趣味悪かろうが、肩書きは若頭だ。こんな瞳が出来たのかと思った。

「桐生さん、先輩って?」
「先輩」
桐生は雲雀を指差す。

「桐生さんていくつですか?」
桐生が黙る。
この場に相応しい言葉でないのは自覚している。だが気になったのだ。

「27だけど。そんな話、してないよな」
「すみません。でもそれじゃあ可笑しくないですか。雲雀さんて千里の義弟でしょう?」
「は? 義兄だろ」
「どっちだっていいだろ。くだらない」
そっけなく雲雀は吐き捨てるように言った。

「ねぇ、先輩。敵になるならオレも容赦しないぜ」
カウンターの椅子から立ち上がる桐生に雲雀はくっと頬を上げた。

「椎名まで巻き込むつもりなかったけどそうも言ってられなくなったよ」
わざと桐生を椎名と呼んだ事に気付く。桐生の眉がぴくりと動いたのを仁は見逃さなかった。

「克己」
はっと後ろを振り返ると克己が入口に立っていた。
数人の屈強な男が克己の後ろにいた。

「はじめましてかな。桐生さん。オレが久遠寺組組長の長男、克己です」
「なーんで久遠寺がここにいる」

「ここは久遠寺がこのフロアだけ雲雀から買い取った。だからここにいてもおかしくない」
「ここは東雲のビルだよ、久遠寺」
吹き出すのを堪えるように久遠寺は、ははっと笑う。

「まさか思わないよな。東雲のビルに久遠寺のテリトリーがあるなんて。東雲は雲雀が裏切ってることに気付いてもない。仁、そろそろ移動だ」
男達が入ってきたかと思えば仁を拘束する。

「仁!」
桐生が一歩前に出た所で桐生の身体ががくんと落ちた。

「桐生さん!」
助けに寄ろうとするが男達の拘束に阻まれる。

手を付いた桐生が雲雀を見上げて睨む。

「コーヒーか……」
ずるっと床に桐生の身体が倒れた。

「きっ……」
桐生の名を呼びかけた仁を遮り、克己は男達を顎でしゃくる。
仁は引きずられるようにしてリビングを出た。

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