最強男 | ナノ


▼ 17

んー、とうなって朱里は答えた。

「蜂谷朱里だったから。蜂谷朱里としていたから誰もちさっちゃんと兄弟なんて気づかなかった。高校から髪染めたし服の趣味も違うし、ダチもさ、双子って知ってるのにそれ忘れる程だった。あ、だからって仲が悪いわけじゃなかったぜ、ちさっちゃんとは」
朱里がちょっと笑う。

「本宅に連れて行かれることもなかったしな、他の兄弟と違って。東雲朱里として本宅に行ったのは、数える程度だ。一番最近ので言えば、数年前親父が死んだ時か」
「そうなんですか」
「けど、そういう風に扱われてきたのは理由があったんだよ。親父が死ぬ少し前に総本家に来いって呼び出された。で、親父と2人で京都に行った」
仁は黙って先を促す。

「全部話してくれたわ。時雨さんと俺しか知らない。親父は待ってた。ちさっちゃんが気付くのをな」
「気づくのを待ってた……?」
「そう。親父の無念は自分が死ぬまでにちさっちゃんが気付かなかった事じゃね? 俺、親父に言われるまで親父がちさっちゃんに気付いて欲しかった事わかってさえいなかった」
「千鷹さんはどうして千里に言わなかったの? 言えば良かったのに。その気付いて欲しかった事」
「そういうもんじゃないだろ。仁、お前、時雨さんに稽古つけて貰ってるだろ」
「はい」
そこには朱里の真剣な瞳があった。

「お前、気付くかもな。時雨さんとちさっちゃんの側にいるお前なら、もしかしたら気付くかもな。その時、お前がどうするかは任せるけど、多分千里が気付かなきゃ意味ねぇーんだと思う」
前を見つめる朱里の瞳は、千里そっくりだった。いや、もしかしたら千鷹そっくりなのかもしれない。

「どうしてハチさんに千鷹さんは京都に連れて行ってまで?」
「さぁ? なんで俺だったのかはわかんね。ただ京都だったのは俺、小学生の時、京都で鮎食いたいって言ったことあんだよね。しきりに美味いかって聞いてくんの。自分でも言った事忘れてたのにな」
「千鷹さん、ほんとはすごく優しい人なのかも」
「どうかな」
朱里が肩をすくめた。

「優しいなんて思った事ねぇし、親父を好きだった時雨さんも優しいって思った事あんのかあやしい」
「え、そうなんですか?」
「うん。そこは時雨さんに聞いてみれば? もし親父が生きてたら、仁にはあの人がどう見えたんだろうな」
見上げるように仁を見て朱里は窓の外を見た。

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