最強男 | ナノ


▼ 16

そして千草が何か千里に耳打ちする。すっと千里の顔が硬いものへと変わる。

「千里?」
それを見て仁は千里の名を呼んだ。

「千草、別宅に行くぞ。仁、黒田のとこに行け。黒田に従え」
「あ、うん」
「千明、事務所に戻れ。大阪行きは延期だ」
「わかった」
何かを察したのか千明は立ち上がって日立と出て行く。

「仁、朱里がまだいるはずだ。車、乗せてもらえ」
頷くと仁は部屋を飛び出した。
外へ出れば朱里の車が出ようとしていたところだった。

「乗れ、仁」
既に千里から連絡がいったのか朱里が声を上げた。
車に乗り込むと初瀬がすぐに発進させた。

「ちさっちゃんから何か聞いてるか、仁」
「何も」
「そうか」
「ハチさんは?」
「聞いてねぇよ。着いたらわかるだろ。多分、久遠寺組だろうな」
「久遠寺組? 聞いた事ある」
「あるだろうな。でかい組だし。警察いたなら何度も聞いた筈だ。親父の代から東雲とは仲、悪くてな。小さないざこざはあったんだ。それが大きくなってドカンっ! って、なったんじゃね? 前もちょっとドンぱちやらかしてんだよ、久遠寺とは」
「そうか」
「下手すっと、お前、狙われる」
「……」

朱里が間を置いて言った。
「犬、欲しくない?」
「犬?」
「俺、なってもいい。仁の言うことを聞いて動く奴。欲しくね?」
「ちさっちゃんの“日立”になるんだよな。そしたら仁が命令出来る犬、持ってた方がいい」
「ハチさんを犬にするの?」
「そう。そうしてたほうがいい。お前が“日立”になって、でもお前が元刑事だってばれてみろ。誰も命令なんか聞かない」
「そう、かな」
「黒田いるだろ。あいつは別の組にいた。だから組員の反感があるんだ。いつか裏切るってな。黒田も反感かってるの知ってて煽って遊んでるけどな、仁は違うだろ」
「俺、使え。仁。お前が命令したら俺は聞くよ。お前の手足になってやる」
「俺、下っ端だよ?」
「それが? お前、ちさっちゃんのトコまで上がって行くんだろ。違うのか?」
「違わない」
「だったら、俺はお前の犬だ」
満足気に朱里が笑う。

「でも、千里の双子の弟なのに」
「関係ない。それに俺は組長と双子だって知らない奴のほうが多いんだぜ。知ってるのはせいぜい幹部くらいだ」
「そうなんだ」
「満足に俺の顔知ってる奴、いないんじゃね?」
けろりと朱里はそんな事を言った。おもわず、どうしてと聞き返していた。

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