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しばらくして初瀬がやって来た。お久し振りです、と仁に挨拶して来る。
「いますよね、朱里」
「うん、少し前に来た」
ちょっと困った顔をして初瀬は溜息をついた。
「初瀬、ちょっと」
日立が初瀬を手招きする。呼ばれた初瀬は仁から離れた。
暫くして日立と初瀬が戻ってくる。その後ろに千里がいた。千里に声を掛けようとして仁は動きを止めた。
千里が2人いた。
「千里?」
2人の千里が仁を見た。
きっと1人はさっき来た朱里だ。
千里そっくりで仁にはどっちが千里なのかわからない。
「お遊びだ。千里を当ててみろ」
千里が言う。
「外したら朱里と帝国ホテルのスイートルーム一泊。当てたら千里と帝国ホテル、お食事だ」
「なに、それ」
「今から2時間やる。こいつと俺、どっちと話してもいい。2時間で当てる事」
「2時間しかないの? って、いうかなんでこんな事するの?」
当てっこするのはいい。ただ趣旨がわからない仁は戸惑うばかりだ。
しかもついさっき泣いていた朱里がこんな事するのが不思議だった。
「楽しそう。いいじゃん、仁。つき合ってやれば? 2人そろうとなんかやり出すんだよ。千里兄と朱里兄は」
千明が面白そうにそう言った。
「……千明、わかるの?」
「我が兄だけれど全然わからない。だからアテにはするな」
「2分経った」
もう1人の千里が腕時計を見て時間の経過を告げる。ゲームは始まっていた。
左にいる千里は長袖シャツにジーンズ。それは右にいる千里も同じだった。ただシャツの柄は違うしジーンズも種類が違う。
朱里の染めた髪は黒に戻っている。あちこち跳ねさせてあったせいか千里と実は同じ髪型をしていたのを今知った。
「わかんないよ。えっと……」
「仁、わかんないの?」
千歳が仁を見上げる。
「千歳、わかるの?」
「うん」
自信満々に頷くところをみると本当にわかるようだ。仁は焦った。
朱里なら兎も角、千里とは肌を重ねた仲だ。わかるはずなのだ。千里と朱里の違いを。
「……Lは?」
いつもならLは千里のスーツのポケットの中か、もしくは肩に乗っている。
「ここ」
右にいた千里が指差す。スイーツののったテーブルにLはいた。
いまや仁のペットというより千里のペットだ。
右の千里が本物の千里だろうか。朱里はLを知らない。
「……」
Lを使って千里を見極めようとしたがやめた。自分がわかってこそだ。千里は大事な人だから。
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