▼ 13
「オーッス!」
その声に振り返れば日立だった。横に千明もいる。
「お、いいもん食ってるな。千歳」
「うん」
スイーツをおいしそうにフォークで食べている千歳に日立は声をかけた。
「なぎちゃんの作ったものは絶品だもん。ね、仁」
「ね、千歳」
千歳と目を合わせて笑い合う。
「確かに絶品だ」
そう言って千歳の横に座った。
「くふちゃんも食べる?」
「くれるのか」
「うん」
はい、あーん、と千歳は日立の口に食べさせる。
「あー、やっぱうまい」
「ありがとう」
嬉しそうに渚は礼を言った。
「千明も座って。食べるよね」
「食べないわけないよ。渚のスイーツ、食べたくてこの時間狙って来たのに」
千明は日立の横ではなく仁の向かいに座った。
「ちゃきちゃん、なぎちゃんのスイーツ好きだもんね」
「店開ける腕だと思う」
「あ、それ俺も思う」
仁もそれは何度も思った事がある。
「でも、僕パティシエじゃないからね。お菓子作りは独学に近いよ」
「すげー、渚」
千明がほめる。
「仁、千里どこいる」
千歳の横でスイーツを食べる日立が顔を上げる。
「庭に。でも今、ハチさん来てて」
「ハチ? ああ、朱里か」
千歳から離れると、そのまま日立は出て行った。
千明と日立が来たのは千里に用があったのだろうか。けれど千明はスイーツを食べるのに夢中だ。
「千明と日立さんって何の用で来たの?」
「明日から大阪行くんだ。遼に会った? あいつと。ま、遼はあっちに帰るんだけど。だから千里兄に挨拶しに」
「大阪に行って何するの?」
「偵察。ほんとは弾がすべき仕事なんだけどね。あいつ、黒田さんが来て忙しくなったから。2・3週間帰って来れないから、事務所よろしく。黒田さんには任せられないしさ。事務所を仁に任せるのは千里兄も知ってるから後で詳しい事聞いたらいい」
黒田の名が出て仁は千明を見る。
「……千明は千里の事、千里兄って呼ぶんだね」
「いけない?」
弟が兄を慕うように、千明は千里を千里兄と呼ぶ。そこには何もないように。
千明と再会した時なら何も思わなかっただろう。けれど、千明と千里の間には溝がある。
「別に千早と違って、千里兄とは仲良くとまではいかないけど、喋りはするよ。1番仲良いのは朱里兄だけど」
「千草さんとは?」
「1番、喋りにくい」
「そう?」
意外な気がする。千明は比較的誰とでも仲良くなれるタイプだ。
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