最強男 | ナノ


▼ 12

足音がした。最初、千草かと思ったが、彼はこんなばたばたと音を立てない。
仁は千里の指を離した。

「ちさっちゃーん」
千里そっくりのその声。朱里だった。

「ちさっちゃん」
「仁がいるからここには来ないんじゃなかったのか」
「もう会っちゃったら一緒一緒」
ちらりと朱里は仁を見て、おおい被さるように抱きついた。

「ハチさん!?」
「うるさい。黙れ」
耳もとで朱里が喚く。
困惑気味に仁は千里を見上げた。

「ちさっちゃん」
「何」
「仁、貸せ」
「断る」
「けち」
顔を上げた朱里の顔を見て仁は驚いた。

「ハチさん、何かあったんですか?」
「ねーよ」
朱里は泣いていた。静かに。

そっと伸びて来た朱里の手が千里の手を掴むと朱里は仁から離れて千里に抱きついた。

「ちさっちゃん……」
嗚咽を噛み殺すように泣いた。

「朱里」
赤ん坊をあやすように千里の手が朱里の背を叩く。そうすると朱里の千里へ抱き付く腕に力が入る。
まるで離さないというかのように。

「仁、向こう行ってろ」
千里の言葉に小さく頷いてその場を離れた。


朱里は、千里とは双子だと言った。顔も身体付きもそっくりだ。違うのは千里の黒い髪と朱里の赤い髪、あとは服装だけだ。

朱里に会ったその後も千里からは朱里について一切聞いたことがなかった事に気付いた。


リビングに行けば千歳がスイーツを食べているところだった。
「仁も食う?」
渚が紅茶を千歳の前に置いた。

「うん」
「座って」
渚がキッチンから数種類のスイーツを盆に乗せやって来る。

「試作品だけど」
「渚が作ったの?」
「そう。あとで感想聞かせて?」
無言で食べる千歳に目を移す。

「美味しいよ」
あむ、と苺を頬張る千歳に仁は笑みを浮かべた。

「さっき来たのは朱里?」
「あ、はい」
「初瀬は?」
「見てない」
首を振った。

「じゃあ、後から来るかな」
仁のカップに紅茶を注いでくれる。

「ありがとう」
にこりと笑顔を見せる渚は邪気がなく心和むものがある。

「渚」
「ん?」
「どうしてここで働くようになったの?」
「千里、……組長に拾われた。仁と同じだよ」
「いつ?」
「8年前かな」
その時を思い出すかのように渚は視線を遠くにやった。

聞きたい?と聞いてくる。それに頷いたが、千歳が視界に入り夜にでもと仁が言えば、いつでもと返ってきた。

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