最強男 | ナノ


▼ 11

それからは千里は言葉を発しなかった。それが数十分続いただろうか。


「仁は知りたいか、仁の知らない東雲の事を」
遥を見送った仁が再びこちらを向く。

「知りたい。知って、理解したいよ。東雲の事を。千里の事を」
そうか、と千里は顔を上げ空を見る。澄みきった青空が広がる。

そうか、そう行って千里は庭に降りる。仁は縁側に立ち千里を見下ろした。

「東雲は、俺で何代目になるのか忘れたがヤクザ稼業では俺で5代目だ」
「東雲って結構続いている家なの?」
「ああ。文献によれば江戸中期位から残っている」
「へぇ……」
「そこに東雲に従う新居が加わった。日立は東雲のダチだったらしいな。三家の始まりだ。今じゃ親戚だな。1代前の東雲が親父。日立が時雨さん。新居が要さん。要さんには会ったことがないな、仁は」
「うん、ない。新居は棗さんしかないよ」
無口な棗を思い出す。

「俺は東雲の血しか入ってないが、千歳なんかは3家の血がまざっている。千咲もそうだな。東雲と日立の血が混じった新居はより強い力を持った」
「力?」
「新居は未来を視る。その力が東雲と日立の血でより強力になった。新居にとっては相性のいい血だったんだろうな」
「……」
「3家の血が混ざった子だけが未来を視る事が出来る」
「未来……」
思い当たる節がある仁は千里を見上げた。

「じゃあ、千歳も未来を視る事ができる……?」
「いや、出来ないだろ。出来た所でそんな力を小さな千歳が受け止めきれないだろ」
「でも多少影響ある?」
「ああ、あるな。別宅には必要がない限り連れて行かない」
確かに千里は月に1度ある幹部会議以外に別宅へは連れて行かない。

「でも幹部会議には連れて行かないとな」
「どうして?」
「あいつは俺の子だ。日立の子、それに新居の血が混ざっているとばれるとちょっと厄介なんだ」
「ふうん」
あえて仁はなぜか聞かなかった。千里もその先を言おうとはしない。
千里が縁側へと戻ってくる。

「お前も幹部に言うなよ」
「もちろん!」
絶対言わない、そんな思いで力強く言えば千里は吹き出した。

「お前が本当に言うとは思ってねぇよ」
千里の指が仁の額を小突いた。その指を仁は捕まえた。

「ここで……、千里から聞いたことは誰にも言わない」
その指をそっと唇に当てる。約束と仁は呟いた。

prev / next
bookmark
(11/22)

[ back to top ]


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -