抱き寄せた名前の身体は柔らかかった。僕が壊してしまいそうだと不安になる程脆そうで、同時に大事にしてあげなげきゃと、僕がこの子をそうしてあげなきゃと思えるそれだった。包み込むように回した腕は、拘束するには優し過ぎたけれど、名前は今までみたいに逃げようとも拒もうともしなかった。





「狡いね名前は」



素直に僕の腕の中に収まる名前への声は湿っていた。まるで僕の声じゃないみたいに。狡いよ本当に。僕が苦しそうだから泣くなんて。こんな時に従順に僕を受け容れて。だから僕はもう名前を咬み殺せない。ほんの少し腕に力をいれる。抵抗なく近づいた身体はこんなに脆そうで、簡単に壊せそうだけど、
僕を苦しくする原因だけど、







「こんな気持ち初めてだよ、咬み殺したいのに出来ない。君が泣くのは見たくない。…どうしてだか解る?」




腕の中で名前が頭を動かした。僕を見る様にした名前のまだ水を湛えた瞳に、小さな僕が映っていた。






「僕がどんな気持ちだったか解る?あんな紙切れひとつで片付けられて、」





「…ごめんなさい」



僕を苦しくする元凶、の名前は素直に謝った。でもきっと名前もそうだったんだろう。苦しかったんだろう。ここ数日、名前が何か言いたげにしていたのを僕は知っている。でもだからって僕は赦さない。







「赦さないよ、一生」



その言葉に名前は眉を下げた。大きな目をそっと細めた名前は痛みに堪えるみたいに見えた。けれど数回瞬きをした後、確かめる様に「一生?」と口唇だけで反芻した。僕はそれにゆっくりと頷いた。






「うん。一生、僕の傍から離れるのは赦さない」



名前が好きだよ

声はもう湿っていなかった。けれど自分でも驚くくらい柔らかだった。名前は涙を沢山溜めた目で、だけど真っ直ぐに僕を見ていた。また浮かんだ涙が瞬きするたびに落ちる。開き掛けた口唇を促すように触れた頬はやっぱり冷たかった。名前は言葉を紡ぐ代わりに目を閉じた。綴じた瞼の隙間からまるい雫が滲み出る。それを掬い上げる前に、僕は名前にそっと口付けた。それはまるで儀式の誓いのキスみたいに静かで、証のようなキスだった。






100602





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