灰汁が抜ける&???






おかしい。いやいやいやいや。絶対おかしい。なんか変なきのこ食べたのか?拾って、食べちゃったのか?だって、あの、いつもと、違いすぎて。

「やぁ皆。もう来てたのかい?」

「真田。ネクタイが曲がってるよ」

「仁王!そのまま行ったら犬の糞踏んじゃうよ!ちゃんと前見て歩きなよ」

「あ。やばい筆箱忘れた。悪いんだけど誰か貸してくれないか?」

嘘だ嘘だ!この人は悪いなんて言葉は使わない!っていうか悪いなんて絶対思わない!

「…?なんだい皆。俺の顔に何かついてる?」

「…幸村。何かあったのか?」

痺れを切らして柳先輩が部長に尋ねた。他の皆も首を縦に振り激しく同意する。もちろんそん中に俺も入ってる。だって、有り得ないでしょ。
この人が、部長が、嫌味を言わないなんて。しかも笑顔が…。黒くないなんて。
いつもの部長なら副部長とか仁王先輩に気付いたって、絶対注意なんかしない。むしろ黙ってて後からクスクス笑うのがこの鬼部長のやり方だ。
筆箱忘れたって、

「あ。筆箱忘れた。ねぇ赤也。ちょっと貸してよ」

っていつものどす黒い笑顔で俺に笑いかける。のに、今日は気持ち悪いくらい超笑顔で、超申し訳なさそうな笑顔で、俺らに笑いかける。

「?特に無いけど…。どうかしたの?」

「いつもの幸村くんじゃないですね」

「ど…どうしちまったんだよぃ?」

皆どんな反応をしたらいいのかわからないみたいだ。副部長なんかネクタイに手をかけたまま目を見開いて固まってしまってる。滅多なことでしか開眼しない柳先輩も開眼して本気で心配している様にみえる。

「何か違うかい?俺はいつも通りだけど…」

ここで、まさかの、仁王先輩が、

「いつもの幸村は嫌味しか言わんくて、そんなに輝かしい笑顔じゃないぜよ」

ピシッと、部室内の空気が固まった。背中に変な汗をぶわぁと感じたのは、きっと俺だけじゃないはず。皆の目線が、仁王先輩に集まるっても、仁王先輩はどうってこともないように机の上に座っている。なんて勇者なんだ、この人は。
仁王先輩を凝視していたら、プッと後ろの方で小さく声がした。部長が、笑った。

「フッ…ハハハハッ!!俺ってそんなに酷いかな!?やだなぁ仁王。ちょっと傷付いたよ?」

と、腹を抱えながらこの人は笑う。これにはさすがに嫌味を言われる覚悟で言った仁王先輩も驚きを隠せない様子だった。ぽかんと、口をあけて固まってた。
多分、このままの部長がいいな、って思った人もいるはずだ。
だけど、すいません。
俺、多分このままじゃ耐えられないんすよ。立海の部長は、俺らの部長は、こんなんじゃない。

「部長おぉぉぉおお!!帰ってきてくださいよおぉぉおお…!!」

「え!?えっ!?」

俺は部長に駆け寄り大声で叫んだ。それに続いて、他の皆もハッと気付いたように口々に叫び出す。

「そ…そうだぜ幸村!お前はそんなんじゃねえよ!」

「何があったのかは知らないが。いつもの精市と違う確率100%だ」

皆やっぱり、いつもの部長がいいんだ。いつもの、怖くて、黒くて、強くて、そして怖い俺らの部長がいいんすよ。そんな優しい部長、俺らの部長じゃない。だから、戻ってきてくださいよ。
俺は顔を真っ赤にさせて部長に少し早口で言った。
部長は呆けていて何が何だかわからない、という顔だった。











のも、束の間。





「ふーん…」



部長の声のトーンが、下がった。あ。これはヤバい。乗せられた。皆の顔がサッと青ざめていく。冷や汗を感じてるのは、俺だけじゃ、ない。

「皆そういう風にいつも思ってるんだね」

にっこりと、部長は俺らに笑いかけた。




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灰汁が抜ける(あくがぬける)
→いやみやあくどさがなくなって、すっきりと洗練されるようすの形容。


旨いことは二度考えよ(うまいことはにどかんがえよ)
→うまい話には往々にして裏があったり、危険が伴ったりする。うまい話にはすぐにとびついたりしないでよく検討し、慎重に臨んだほうがよいということ。






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