海棠の眠り未だ足らず




夏休み。
俺たち青学レギュラー陣は、全国大会に向けての合宿をしていた。








俺は珍しくいつもより早目に目が覚めた。合宿は今まで結構してきたけど、それでも一番早く起きたかもしれない。首をぐりんと回し、半分寝惚けながら周りを見渡す。まだ他の先輩たちはぐっすり寝ている。

…たった一人を除いては。

(部長…。もう居ないじゃん)

端の方には綺麗に畳まれた布団が一式置いてあった。あの人は一体何時に起きているのだろう…。などと思いながら俺も身支度の用意をする。せっかく早起きをしたのだから朝練ぐらいはしとこうと思い、ジャージに着替えテニスコートに向かった。





テニスコートに近付くにつれ、ボールを打つ音がだんだん大きくなる。こんなに朝早く、こんなに球の音がぶれない打ち方をするのは、一人しかいない。

「…!!おはよう、越前。早いな」

「…はよございます」

俺がこんなに早く起きたことに驚いたのか一瞬だけ戸惑った顔を部長は見せた。しかも何だよ早いなって!!自分の方が何倍も早いくせに!!ドカッとベンチに座り、靴紐を結ぶために片足をあげた。結んでいると、名を呼ばれた。

「越前」

一瞬、肩が上がった。急に呼ばれるなんて、思わなかったから。戸惑いを見せたくなくて

「…なんすか」

と、俯いたまま答えた。

「海堂はまだ起きてなかったか??」

その言葉に俺は顔をあげる。部長は真剣な眼差しで俺を見ていた。

「…まだだけど」

「そうか…。いつもは俺よりも朝は早いんだが…珍しいな」

「そんなに早いんすか…??」

「あいつがこの時間帯に起きてないことは…。今まで一度たりともない」

「へぇ…」

「…妙な胸騒ぎがする。行くぞ、越前」

「はっ。ちょ…、今来たばかりなのに…!!」

俺の言葉など気にも止めずに部長はずんずん合宿所に向かっていった。…本当テニス部のことしか考えてないな、この人。

















俺と部長が着いた時には、もう先輩達も起きていた。けど、いつもと様子が違った。全く物音をたてずに布団を見ている。いつもは信じられないくらい煩いのに、何故か先輩達は全く動かず、立ちすくんでいた。

「…なんなんすか、アレ」

「わからん…。行ってみよう」

俺は近付いて先輩達の顔を覗きこんだ。部長は後ろから

「何をしている」

と、言葉だけ投げ捨てた。

先輩達は部長の言葉にも反応せずある一点にだけ注目していた。その信じられない光景に俺は目を見開いた。
嘘、まじで、ちょ、いやいやいや、何が、おかしい、だって

「誰…これ」

目線の先には美女がいた。つやつやな黒髪にスラッとした切れ長の目、寝起きなのか長い睫毛が震えていて瞼がふるふるしている…。とにかくそれぐらい美人な人が何故か俺達が寝ていた布団の中に居た。一番近くに居た桃先輩に俺は尋ねる。

「ちょ…!!桃先輩誰っすかこの女の人!?すっげぇ美人だし…。ま…まさか桃先輩連れこ…!!」

「なわけねーだろ!!」

「じゃあ誰っすかこの人!?」

「あり得ねーな…。あり得ねーよ…」

「はぁっ!?」

「海堂だよ…」

えええぇぇぇぇぇぇええ!!!!

何この人っていうかこんな綺麗で男だったら全世界の女性が否定されてもおかしくない。なのに桃先輩はこの人を海堂先輩って言う。何言っちゃってんのこの人ぉ!!

「本当に海堂なのか??」

後ろから部長が問いかける。それにいち早く答えたのは、乾先輩だ。

「手塚も、皆も落ち着け。これは正真正銘海堂だ」

皆目を見開いたまま乾先輩を見つめる。何言ってんだこの人は、と皆少なからず心の中では思ってるだろう。

「これこそ正に、」







「『海棠の眠り未だ足らず』だよ」




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海棠の眠り未だ足らず
(かいどうのねむりいまだたらず)
→まだすっかり眠りから覚めきらずにうつろな感じでいる美人の、あでやかでなまめかしい姿の形容。










〜その後 ※オール会話文〜

「んなの認められるかあぁぁぁああ!!」

「ん??もう一回説明しようか??桃城、越前」

「そう意味じゃないっすよ乾先輩!!」

「なんか…納得いかないっす」

「そうか??いいじゃないかこの海堂も…。(あぁ可愛い可愛い海堂ハァハァ)」

「な…なんだか乾危ないよ…」

「気にすることないっすよ、タカさん。もうほっときましょ」

「ふぇ〜!!これが海堂〜…。すっごく可愛い〜!!」

「こ…こりゃ大変…」

「クス…。まぁ海堂は寝かしといてあげようよ。ね??手塚…。…………手塚??」

「…」

「どうかしたの??不二」

「あぁ英二…。手塚…」






「立ったまま気を失ってるよ」






「…もう今日は無しっすね」




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ぐだぐだですみませんでした!!
初の青学小説楽しかったです!!

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