「ったく、なんだよ。あいつから久しぶりに部活が休みだから一緒に帰れるって言ってきたくせにっ」

あのまま高木にからかわれたまま帰ってきたことに、俺は地味に後悔している。扉ではなく高木本人に蹴りを入れてやれば良かった。別にあいつに彼女が出来ようが出来まいが俺には関係ねぇっつーの。



ブブブブブ。


「ん?」

家のソファに座りながら冷蔵庫の奥に隠してあったプリンをスプーンで掬いながら食べていると、微弱だがバイブのような音が聞こえてきたものだから俺は耳を澄ます。
どうやら発信源は俺の鞄の中からのようだ。


「危ねー、オフ設定にし忘れてたのか」

学校で鳴らなくて良かった。
俺たちの通っている学校は、持ち込み自体は禁止ではないのだが、学校内で使用したり、授業中にバイブ音や着信音が鳴ったりして授業の邪魔になったりすると、下手したら没収されてしまうのだ。基本は、通学中に起こる事件を少しでも避けるためだけに持ち込みOKとなっているらしい。
とはいっても、大半は教師が居ない休み時間などは平気で教室内でも携帯扱ってるけどな。まぁ、先生たちも薄々気付いているんだろうけど。


「誰だろう?」

交友関係は寂しいながらも浅く狭い俺。
友達のアドレスは高木含めて数人しか知らない。メールするのはほとんど高木だけだし、両親はどちらとも仕事中。

となると、99%の確立で高木からだろう。

もしかしたら先程の俺に対する無礼を詫びるメールか?まぁ、謝ってきても許してやらねぇけど、と一人ニヤニヤしながら送られてきたメールを開いてみれば、意外な事に送り主は高木ではなかった。

では一体誰なのか。
それはメールを開いた俺にも分からない。


「誰だこれ?」

アドレス帳には登録していないメールアドレス。
よくよく見てみると、初期設定のまま一度も変えていないであろう英数字の羅列が並んでいるだけ。アドレスを見ても分かるのは、俺の携帯と同じ所の会社だということだけだ。

しかもだ。
本文には名前が書かれていない。
書かれているのは、

『メールしたい』

という記号も顔文字も絵文字もないシンプルで唐突な内容である六文字だけ。


「悪戯メールか?」

下手にメールを返すと後々大変な事になるかもしれない。返信せずに削除するのが吉か。いや、でも待てよ。もしかしたらただ名前を書き忘れただけかもしれない。それに本当に俺とメールしたい人かもしれないし…。


「いや、それはないか…」


…でも。
もしかしたら。
本当に俺とメールしたい人からという可能性も1%はある。

そうプラスに考えた俺は若干戸惑いながらも送り主不明のメールアドレスに返信した。

『いいよ。』

と、それだけ。
向こうの人に負けず劣らず味気のないメールだ。


だが俺は内心ワクワクしていた。


この送り主はどういう経緯で俺のアドレスを知ったのか。
俺のことを知っていてメールを送ってきたのか。
次はどんな返事が返ってくるのか。


そう考えると、次に送られてくるメールが楽しみで仕方ない。




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