「やべ、席に着かねぇと」

「あ、おい!今のどういう意味だ?」

「その話はまた今度だ」

「…ったく」

一体どういう意味なんだ?
あの睨みは俺ではなく高木宛てだと?そんなことあるわけない。大体、高木が犬飼に睨まれる理由なんてないじゃないか。あれは間違いなく俺宛ての睨みだ。


「………」

負けじと席に着く際に犬飼を睨んでやった。
しかし何故か犬飼の目からは先程までの凄みと鋭さが欠けていた。


「……」

「……」

けれどよく見てみれば、鋭さがないその目には熱が篭っているような気がする。

…意味分からねぇ奴。
俺はプイっとすぐさま目を逸らし、そのまま席に座った。しかし授業が始まっても、犬飼からの熱い視線を感じるものだから、俺は不愉快さに本日二回目の溜息を吐いたのだった。





*****




「おい、高木帰ろうぜ」

「猿渡、悪い。そのことなんだが、用が出来た」

「え?一緒に帰れないってこと?今日は部活ないって言ってただろ?」

「部活は休みだが、……まぁ、野暮用だ」


おいおい、それはないぜ。
お前から今日は部活が休みだから久しぶりに一緒に帰ろうと言い出してきただろ。俺は内容の分からない「野暮用」とやらに負けてしまったのか。…なんかむかつく。久しぶりに一緒に帰れると思って少し楽しみにしていたのに。


「あ!もしかして女か?!また呼び出しか?!」

「あー、…そんな所?」

「ちっ、モテる奴はいいですねー。ふん、一人で帰ればいいんだろ」

「そう怒るなよ。今度好きなもの奢ってやるから」

「俺が飯一つで釣られるわけ…………、B定食な」

「はいはい」

「よし、それなら一人で帰る。女の子からの告白もたまには断らず優しくしてやれよー」

「俺が女の子と付き合って一番寂しがるのはお前だろうが」

「んなわけねぇだろ!…っ、俺、帰るから。じゃーな!」

足早に鞄を手に取り、扉を開けて廊下に出れば、「図星だからって、照れんなよ」と高木の笑い声が後ろから聞こえてきた。
図星じゃねーよ!その笑い声にムカっときて、開けた扉をおもいっきり閉めてやれば、更に愉快そうに笑う高木の声が聞こえてきたものだから、最後に扉に蹴りを入れて俺は学校を後にしたのだった。




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